国土交通省は令和6年11月7日、「粘り強い河川堤防」の応募技術として、越水に対する性能等が一定程度確認された4技術の技術比較表を公表した。
昨年の3月から公募を開始し、半年ほどかけて評価検証して、本来であれば昨年度末に技術比較表を公表する予定だったらしいが、作業が難航したらしく、スケジュールは7か月ほど遅れてしまった。
公募条件は、越流水深が30㎝の場合でも3時間耐えられることである。
しかし、目標の越流水深30㎝に対して堤防を50㎝嵩上げすれば越水は防げるし、応募されたどの技術よりも堤防嵩上げが経済的であることが判明した。
粘り強い河川堤防か、堤防嵩上げか。どちらを選択するかは、浸水被害に悩む流域住民の判断や意見が必要である。
堤防を50㎝嵩上げした場合のコストは10万円/1m(直工)になった。さらに100㎝の嵩上げだと15万円/1m(直工)で済みそうである。
今回公表された各応募工法の単価は以下のとおりであり、堤防嵩上げの方が圧倒的に経済的であることが分かる。
堤防を100㎝も嵩上げすれば、越水する確率は大幅に低減し、国民の大切な血税を無駄に投入する必要もなくなる。
粘り強い堤防か、堤防嵩上げか。今後、使い分けの議論が国交省内で始まるものと思われるが、大切なことは流域住民との合意が重要になるということである。
①、カゴ枠法面工 32.9万円/1m
②、改良型被覆ブロック等を用いた表面被覆型の堤防強化技術 33.8万円/1m
③、透気防水シート「ブリーザブルシート」 17.7万円/1m
④、越流対策型 布製型枠工法 28.7万円/1m
国土交通省の治水課が発表した技術比較表の詳細は下記による。
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/teibou_kyouka/index.html
なお、今後は4技術の技術比較表に基づき、国交省の出先機関の各地方整備局がパイロット工事や試験施工を行う場合の参考資料として取り扱われ、完成後は効果検証される予定となっている。
しかし、試験施工箇所で越水が発生する可能性は天気しだいであり、効果検証がいつできるかは予測不可能だ。
①、カゴ枠法面工 堤防嵩上げの約3倍の32.9万円/1m カゴのままで景観上で問題がないだろうか?
②、改良型被覆ブロック等を用いた表面被覆型の堤防強化技術 堤防嵩上げの約3倍の33.8万円/1m 覆土の厚さが一律30㎝だが、千曲川のように覆土が滑落しないか不安である。
③、透気防水シート「ブリーザブルシート」 堤防嵩上げの約2倍の17.7万円/1m 覆土の厚さが一律30㎝だが、シートは表面水は浸透できないのでシートがすべり面になって覆土が滑り落ちるのではないかとの懸念がある。それに施工中にシートを傷つけてしまう可能性もある。
④、越流対策型 布製型枠工法 堤防嵩上げの約3倍の28.7万円/1m 覆土の厚さが一律30㎝だが、千曲川のように覆土が滑落するのではないかと不安である。
千曲川の覆土の崩落状況。覆土の下にはコンクリートブロックがある。覆土の崩落は数か所で発生し、北陸地方整備局は検討会を設けて対策をすることとなった。検討会の資料は次のとおり。
https://www.hrr.mlit.go.jp/river/chikumafukudochousa/01_(1)240625_siryou,all.pdf
北陸地方整備局の検討会が再発防止策として打ち出した、覆土を緩勾配にする案だがコストが膨大になる。最初から堤防嵩上げしていれば、裏法面のブロックでの補強が不要になり、覆土が崩れることもなかったと思われる。粘り強い堤防に固執するとコストアップがついてくることになるので、嵩上げとの比較検討が必要である。