2019年に発生した台風第19号で越水破堤が相次ぎ、国交省は堤防の裏法面の補強対策に本腰をあげ検討会を設置し、2022年には全国の16箇所で越水対策のパイロット工事を実施した。
パイロット工事として国交省治水課が選定した方法は2種類で、ひとつは吸出し防止シートの上に連結ブロックを敷くもので従来工法と変わりはない。もうひとつは吸出し防止シートを敷き覆土する方法だ。どちらも侵食防止のために吸出し防止シートを採用している。
下の写真は、国交省が危機管理型ハード対策として、5箇年計画で施工した川裏の法尻ブロックである。
吸出し防止シートを敷いてその上に連結ブロックを配置したものだが、連結ブロックの隙間から柳の木やイタドリなどが生えている。このブロックが整備されてからまだ数年しか経っていないが、柳や葛、イタドリなどに占領されてしまった。
吸出し防止シートはポリエステル製の不織布が殆どである。伸び率が50%以上の国交省の評価基準の制約があって、不織布は網目が拘束されていない。だから、いったん草や木の芽がシートを通過すると、シートが伸びて穴が広がるので草や木が自由に成長できるのだ。
草や木で吸出し防止シートに開けられた無数の穴は自然には元に戻ることはない。越流した水がその穴に流れ込み堤防が侵食されてしまうことになる。そして、成長した柳の根株で連結ブロックが押し上げられ、吸出し防止シートの継ぎ目が大きく開き、越流水が浸入し堤防を侵食することも十分に予想される。
また、除草が人力作業になるというデメリットがある。肩掛け式の除草機の刃がブロックの隙間に入らないので、完全な除草は無理である。現場では作業員が鎌やノコギリで刈り取るしか方法がないのでコストアップになる。さらに、デコボコのブロックの上での作業は不安定で、足をくじいたり転倒する可能性が強い。
こうした現場の問題や課題は、机上でのイメージや水理実験室で予見することは難しく、工事後数年経過した現地で出現する。その意味でも長期スパンでの現場観察が必要だ。場当たり的ではなく、現場に長年従事し維持管理の実態を把握している技術者の知見が、越水に対して粘り強い堤防の検討に必要ではなかろうか。
2年ほど前に全国で整備が完了した、危機管理型ハード対策としての川裏の法尻ブロックに、草や木が茂っていないかを全国規模で実態調査することが重要だ。そして、下の写真のような状態が全国各地で発生しているのであれば、草や木で穴が開かない吸出し防止シートの開発が求められることになる。
吸出し防止シートに穴が開いたり隙間ができたりしないようにするには、継ぎ目を溶着や接着、嵌合式などで完全に密閉させたり、網目が広がらないように網目の交点が結束されているジオグリッドや、ジオネットのような構造の吸出し防止シートの検討も必要だろう。
今年の5月20日に1回目の検討会が開かれてから4ヶ月経過したものの、2回目の検討会の開催の気配はいまだにない。恐らくは民間等に求める技術提案の前提条件の調整などで難航しているのかもしれないが、今年も全国各地で越水破堤が発生しており、一刻も早く対策案を示し対策工事を進めることが求められている。
そして大事なことは、維持管理が難しい構造は避けなければならないということである。
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