2024年7月18日木曜日

越水対策の行方  ~応募技術の評価が公表される~

 令和6年6月19日、国土技術研究センターが民間企業や大学などを対象にして公募した、粘り強い河川堤防の技術に対する評価が、同センターのホームページで公表された。

 これは、国交省の「河川堤防の強化に関する技術検討会(座長 山田正 中央大学教授)」から、第三者機関として指定された国土技術研究センターが、民間や大学などから応募された技術に対して行われた評価結果である。

 応募件数は全部で16件だったが、今回は評価階層のC以上の5件だけの公表となり、ほかは選外となっている。

 評価階層はAからDまであり、例えばDの場合は提案技術の性能に課題があると評され、粘り強い堤防の機能が無いと判断される領域のもので、今回は公表対象から外されている。
 評価Aは性能に問題がなく改善の余地もないパーフェクトのものをさすが、今回は該当はなかった。

 工法の種類では被覆型が4件、自立型が1件となっていて、今後、評価された個々の技術の特徴を明らかにした「技術比較表」を整理し、国交省などが公表することになっている。そして、この「技術比較表」に基づいて地方整備局が、パイロット施工や小規模試験施工を実施することになっている。

 「技術比較表」にはコストや施工性などの指標が示されるものと思われる。

 現時点での私が抱く懸念や感想は以下のとおりである。

 被覆型の4工法に共通しているのは、どれも覆土が必要なことである。堤防の裏法面がカゴ枠やブロック、シートのままでは、地域の景観を破壊してしまうから、どうしても覆土が必要になってしまうし、覆土しないと直射日光でシートは劣化してしまう。(覆土が不要な工法は、私が提唱するジオネット+緑化ぐらいである)

 カゴ枠の上に覆土する場合、土砂がカゴ枠の中に吸い込まれないように吸出し防止材を敷く必要がある。階段状になったカゴ枠の上の覆土は、かなりの土量が必要となるので、コストアップが心配だ。

 被覆ブロックの上に覆土する場合は、覆土が崩落しないように工夫が必要だ。千曲川の災害復旧工事では、ブロック上の覆土が何度も滑落したとの報道があったからである。

 透気防水シートに覆土する場合は、シートがすべり面になって覆土が崩壊するのではないかとの懸念もある。また、このシートは排気はできても排水ができないので、堤防の下面からの浸透してくる河川水をどうやって排水するのかが課題になりそうである。

 布製型枠工法は文字どおりに、現地で布製の型枠の中に生コンクリートを流し込んでコンクリート護岸を築造する工法である。この方法も覆土が必要になるので、覆土が滑落しないような対策が必要である。

 さらに大きな懸念は、覆土してしまうとカゴ枠やシート、ブロックの異常や変状を確認することが難しくなってしまうということである。カゴ枠はメッキ仕上げの鉄線なのでいつかは錆びて破断してしまうかもしれない。コンクリートはクラックが発生するし、シートは施工中に重機で破損しているかもしれない。破断やクラックなど覆土で見えなくなるもの(不可視部分)をどうやって点検し補修していくかである。

 不可視部分の日常点検は、令和2年2月の委員会発足当時の開発目標のひとつとしてあげられていたテーマでもある。覆土して見えなくなった対策施設の点検や補修をどのようにすべきなのかが課題になりそうである。

 また、この粘り強い堤防の整備対象をどこにするかも大きな課題である。数年前、危機管理型ハード対策と称して、全国的規模で堤防の裏法面の堤脚部をブロック張で補強したが、当然ながらこの区間が整備対象の最優先箇所となるはずである。

 しかし、施工済みの堤脚部の張ブロックと、新たに開発された粘り強い堤防の構造が異なるので、せっかく整備した堤脚部の張ブロックが使えなくなる可能性も出てくる。これにどう対処するのかも問われることになる。

 まずは、国土交通省などが間もなく公表する予定の「技術比較表」を見てから、今後の方向を予想したいと思うが、現時点で施工性の面でブロック張が有利だと考えられる。既存の危機管理型ハード対策で設置した張ブロックを再利用できる余地もあるからだ。

  しかし、越水対策はなかなか進まない。「技術比較表」もいつ公表されるのかまったく分からない状態だ。
 事務局内でいろいろ揉めているのだろうが、今年も間もなく洪水の季節がやってくる。
 越水破堤は毎年どこかで発生しているのだから、座して死を待っていてはいけない。
 一刻でも早く低コストの粘り強い堤防を整備し、流域住民の安全・安心を確保することが流域治水の基本だ。
 うかうかしていると、越水破堤は簡単に発生してしまう。
6月19日に国土技術研究センターが発表した公募された技術の評価結果。応募技術は16件あって、C評価以上のものを公表対象としている。
昨年、国土技術研究センターが応募要領で示した評価階層の分類表。

2024年7月1日月曜日

堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(8) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)

 イタドリは、維管束と呼ばれる養分を送り込む管(くだ)を経由して、夏の間に葉っぱで合成されたデンプンなどの養分を「貯蔵根」や地下茎に送って貯め込んでおき、翌春の発芽に備える。

 春になり発芽のときには再び維管束を経由して、「貯蔵根」や地下茎から必要な養分を新芽に送り返す。

 維管束は人間に例えると、母親と胎内の赤ちゃんを結ぶ臍の緒のようなものである。(下の写真の黄色い糸のようなものが維管束)

 私が考えたジオネットによるイタドリの成長抑制手法は、イタドリの臍の緒を1mmメッシュのジオネットで狭めて、養分の出し入れをできないようにし、やがて衰退させるというものである。これによりイタドリは恒久的に防止できるし、イタドリ以外の強害植物であるセイタカアワダチソウやブタクサの繁茂も同様に成長抑制ができるのである。
 さらに、モグラの棲息も阻止できるので、モグラを餌ににするキツネなども巣を造ることはできなくなるというメリットもある。

 そして、ジオネットと雑草の根毛が絡みつくので、仮に堤防越水が発生しても芝などが流されにくくなり相当の耐侵食性が発揮できるので、安価な費用で越水対策が可能である。

 この方法を発案したのは10年程前である。
 当初はジオネットの網目を市場に出回っている最小規格の2.5mmで実験したが、この目合いでは養分の出し入れを止められずイタドリは衰退しなかった。翌年、メーカーに頼んで網目を1.5mmに狭くしたが、変化はほとんどなかった。

 次の年は1.2mmにしたものの効果は不十分で、4年目に1.0mmにすると、ようやくイタドリが衰退をはじめた。1mmの目合いだと、野芝の根が通過できるので生育には支障ないが、イタドリの成長はくい止めることができる。これを見極めるのに4年かかったが、ジオネットのメーカーであるタキロンシーアイシビル株式会社の協力があったからこそ開発できたことであり、深く感謝している。

 4年間で分かったことは次のとおりである。

 ジオネットを施工した1年目は、地下茎に養分が残っていたのでかなりの密度でイタドリが萌芽し、草丈も20~30cmに伸びたが、2年目は萌芽本数が激減し草丈も10㎝程度で成長が止まってしまった。これは、前年に葉っぱから地下茎に養分を届けられず、地下茎の残り少ない養分で発芽しようとあがいた結果だと想像できる。

   3年目になると萌芽本数はさらに減ってほぼ根絶状態になった。原因は二つ考えられる。一つは地下茎の養分が枯渇した可能性があること。もう一つは、ジオネットの網目が野芝の根毛で閉塞してしまったことである。網目が塞がるとイタドリだけでなく、他の植物も萌芽は難しくなるからである。



 2024年6月29日(土)の早朝5時に、国交省が管理する江合川(宮城県涌谷町)の試験施工の現場を訪れた。
 前回の観察日は4月28日だったので、それから60日ぶりの現場だった。
 この日の観察のポイントは、過去の知見のとおりにイタドリの萌芽が減少し、衰退に向かっているかを確認することである。
 
 結果は写真のとおりで、想定内の結果だった。

 国交省北上川下流河川事務所や涌谷出張所、若生工業の皆様には、試験施工を立派に実施していただき、心より感謝すると同時に、イタドリの恒久対策に対する熱意に敬服しているところである。今後、この方法をイタドリ防止の恒久的対策や予防保全対策として、発展・普及させていただければ幸いである。

 なお、試験施工エリアでの経過観察は、イタドリの根絶に要する時間や、モグラなどの小動物の棲息防止の効果、除草量の低減効果、ガリ侵食防止効果などを確認するために、今後も続けていきたいと思っている。
2024年6月29日の全景状況。野芝の下に1mmのジオネットを敷設しているが、野芝は順調に生育している。一方、イタドリの芽は前年よりも激減してほとんど見られない。実験エリアの周りのイタドリは2m近くまで伸びている。(試験エリア内の除草はこの1年間未実施)ネットの継目は折り返し加工したものを採用したので、継目からの萌芽は発生していない。
前年の2023年7月7日の全景状況。2023年1月に1mmのジオネットを施工した試験施工エリア。イタドリの根は残置したので赤茶色の芽が30~40本ほど見える。野芝は一部に未活着な部分がある。(試験エリア内の除草は未実施)
2024年6月29日の状況。試験施工エリア内のイタドリ。前年に地下茎に養分を送ることができなくなり、発芽に必要な養分が少なかったので草丈は10㎝程度で止まった。成長が止まったイタドリは緑色になる。萌芽密度は前年よりかなり減った。ジオネットが地下茎への養分蓄積を確実に阻止したようだ。
前年の2023年7月7日の状況。施工後6か月経った試験施工エリア内のイタドリの様子。部分的に密集して萌芽していて、草丈は20~30㎝になっていた。この時点では地面の地下茎に十分な養分が残っていたらしい。イタドリが赤いのは成長途中を意味して、このイタドリはこの先も成長していく。
試験施工で使用したネット。1mmメッシュで継目を折り返し加工した製品は、タキロンシーアイシビル株式会社の独自の製品で他社では製造していない。継目を折り返し加工しているのは、継目に隙間ができないようにするためである。イタドリは少しでも隙間があるとそこから萌芽するからである。

奥はジオネットを敷設しているエリア。手前はジオネットを敷設していない試験施工エリアで、周辺からイタドリが迫るように萌芽している。数年後には一面にイタドリで覆われるものと思われる。
イタドリ対策の恒久対策であるジオネット工法と、従来工法とのLCCの比較を次の条件で行った。
 その結果、100年間で92,000円/m2のコスト高になることが分かった。

①、従来工法で野芝を張替えしても数年で再繁茂し補修が必要になる。
  過去の一般的な事例から張替えサイクルを10年と想定し、100年スパンのLCCを算定。

②、従来工法は、深さ50㎝での切土、土砂運搬、段切り、盛土、法面整形、
  野芝の張り付け作業があり、工事費ベースで9,000円/m2とし、これに除草費を加算する。

③ 除草費は、除草・集草・梱包・積み込み・積み下ろし・運搬費を含み、
  年3回実施で1年あた  り144円/m2とした。(東北地方整備局 河川維持工事より引用)
  ジオネット工法の場合は防草効果があるので、除草費は通常の50%とみなして
  1年あたり72円/m2で算出した。なお、刈草の焼却費用は省略した。

④ ジオネット工法は、深さ10㎝での土の入れ替え、法面整形、ジオネット張り付け
、   野芝の張り付けの4,500円/m2と試算した。

⑤ ジオネット工法は恒久的にイタドリを防御できると想定し、
  維持費として除草費(通常の50%)を加算した。

⑥ 単価は工事費(経費含み)とした。