令和6年6月19日、国土技術研究センターが民間企業や大学などを対象にして公募した、粘り強い河川堤防の技術に対する評価が、同センターのホームページで公表された。
これは、国交省の「河川堤防の強化に関する技術検討会(座長 山田正 中央大学教授)」から、第三者機関として指定された国土技術研究センターが、民間や大学などから応募された技術に対して行われた評価結果である。
応募件数は全部で16件だったが、今回は評価階層のC以上の5件だけの公表となり、ほかは選外となっている。
評価階層はAからDまであり、例えばDの場合は提案技術の性能に課題があると評され、粘り強い堤防の機能が無いと判断される領域のもので、今回は公表対象から外されている。
評価Aは性能に問題がなく改善の余地もないパーフェクトのものをさすが、今回は該当はなかった。
工法の種類では被覆型が4件、自立型が1件となっていて、今後、評価された個々の技術の特徴を明らかにした「技術比較表」を整理し、国交省などが公表することになっている。そして、この「技術比較表」に基づいて地方整備局が、パイロット施工や小規模試験施工を実施することになっている。
「技術比較表」にはコストや施工性などの指標が示されるものと思われる。
現時点での私が抱く懸念や感想は以下のとおりである。
被覆型の4工法に共通しているのは、どれも覆土が必要なことである。堤防の裏法面がカゴ枠やブロック、シートのままでは、地域の景観を破壊してしまうから、どうしても覆土が必要になってしまうし、覆土しないと直射日光でシートは劣化してしまう。(覆土が不要な工法は、私が提唱するジオネット+緑化ぐらいである)
カゴ枠の上に覆土する場合、土砂がカゴ枠の中に吸い込まれないように吸出し防止材を敷く必要がある。階段状になったカゴ枠の上の覆土は、かなりの土量が必要となるので、コストアップが心配だ。
被覆ブロックの上に覆土する場合は、覆土が崩落しないように工夫が必要だ。千曲川の災害復旧工事では、ブロック上の覆土が何度も滑落したとの報道があったからである。
透気防水シートに覆土する場合は、シートがすべり面になって覆土が崩壊するのではないかとの懸念もある。また、このシートは排気はできても排水ができないので、堤防の下面からの浸透してくる河川水をどうやって排水するのかが課題になりそうである。
布製型枠工法は文字どおりに、現地で布製の型枠の中に生コンクリートを流し込んでコンクリート護岸を築造する工法である。この方法も覆土が必要になるので、覆土が滑落しないような対策が必要である。
さらに大きな懸念は、覆土してしまうとカゴ枠やシート、ブロックの異常や変状を確認することが難しくなってしまうということである。カゴ枠はメッキ仕上げの鉄線なのでいつかは錆びて破断してしまうかもしれない。コンクリートはクラックが発生するし、シートは施工中に重機で破損しているかもしれない。破断やクラックなど覆土で見えなくなるもの(不可視部分)をどうやって点検し補修していくかである。
不可視部分の日常点検は、令和2年2月の委員会発足当時の開発目標のひとつとしてあげられていたテーマでもある。覆土して見えなくなった対策施設の点検や補修をどのようにすべきなのかが課題になりそうである。
また、この粘り強い堤防の整備対象をどこにするかも大きな課題である。数年前、危機管理型ハード対策と称して、全国的規模で堤防の裏法面の堤脚部をブロック張で補強したが、当然ながらこの区間が整備対象の最優先箇所となるはずである。
しかし、施工済みの堤脚部の張ブロックと、新たに開発された粘り強い堤防の構造が異なるので、せっかく整備した堤脚部の張ブロックが使えなくなる可能性も出てくる。これにどう対処するのかも問われることになる。
まずは、国土交通省などが間もなく公表する予定の「技術比較表」を見てから、今後の方向を予想したいと思うが、現時点で施工性の面でブロック張が有利だと考えられる。既存の危機管理型ハード対策で設置した張ブロックを再利用できる余地もあるからだ。
しかし、越水対策はなかなか進まない。「技術比較表」もいつ公表されるのかまったく分からない状態だ。
事務局内でいろいろ揉めているのだろうが、今年も間もなく洪水の季節がやってくる。
越水破堤は毎年どこかで発生しているのだから、座して死を待っていてはいけない。
一刻でも早く低コストの粘り強い堤防を整備し、流域住民の安全・安心を確保することが流域治水の基本だ。
うかうかしていると、越水破堤は簡単に発生してしまう。
6月19日に国土技術研究センターが発表した公募された技術の評価結果。応募技術は16件あって、C評価以上のものを公表対象としている。
昨年、国土技術研究センターが応募要領で示した評価階層の分類表。
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