2024年7月1日月曜日

堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(8) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)

 イタドリは、維管束と呼ばれる養分を送り込む管(くだ)を経由して、夏の間に葉っぱで合成されたデンプンなどの養分を「貯蔵根」や地下茎に送って貯め込んでおき、翌春の発芽に備える。

 春になり発芽のときには再び維管束を経由して、「貯蔵根」や地下茎から必要な養分を新芽に送り返す。

 維管束は人間に例えると、母親と胎内の赤ちゃんを結ぶ臍の緒のようなものである。(下の写真の黄色い糸のようなものが維管束)

 私が考えたジオネットによるイタドリの成長抑制手法は、イタドリの臍の緒を1mmメッシュのジオネットで狭めて、養分の出し入れをできないようにし、やがて衰退させるというものである。これによりイタドリは恒久的に防止できるし、イタドリ以外の強害植物であるセイタカアワダチソウやブタクサの繁茂も同様に成長抑制ができるのである。
 さらに、モグラの棲息も阻止できるので、モグラを餌ににするキツネなども巣を造ることはできなくなるというメリットもある。

 そして、ジオネットと雑草の根毛が絡みつくので、仮に堤防越水が発生しても芝などが流されにくくなり相当の耐侵食性が発揮できるので、安価な費用で越水対策が可能である。

 この方法を発案したのは10年程前である。
 当初はジオネットの網目を市場に出回っている最小規格の2.5mmで実験したが、この目合いでは養分の出し入れを止められずイタドリは衰退しなかった。翌年、メーカーに頼んで網目を1.5mmに狭くしたが、変化はほとんどなかった。

 次の年は1.2mmにしたものの効果は不十分で、4年目に1.0mmにすると、ようやくイタドリが衰退をはじめた。1mmの目合いだと、野芝の根が通過できるので生育には支障ないが、イタドリの成長はくい止めることができる。これを見極めるのに4年かかったが、ジオネットのメーカーであるタキロンシーアイシビル株式会社の協力があったからこそ開発できたことであり、深く感謝している。

 4年間で分かったことは次のとおりである。

 ジオネットを施工した1年目は、地下茎に養分が残っていたのでかなりの密度でイタドリが萌芽し、草丈も20~30cmに伸びたが、2年目は萌芽本数が激減し草丈も10㎝程度で成長が止まってしまった。これは、前年に葉っぱから地下茎に養分を届けられず、地下茎の残り少ない養分で発芽しようとあがいた結果だと想像できる。

   3年目になると萌芽本数はさらに減ってほぼ根絶状態になった。原因は二つ考えられる。一つは地下茎の養分が枯渇した可能性があること。もう一つは、ジオネットの網目が野芝の根毛で閉塞してしまったことである。網目が塞がるとイタドリだけでなく、他の植物も萌芽は難しくなるからである。



 2024年6月29日(土)の早朝5時に、国交省が管理する江合川(宮城県涌谷町)の試験施工の現場を訪れた。
 前回の観察日は4月28日だったので、それから60日ぶりの現場だった。
 この日の観察のポイントは、過去の知見のとおりにイタドリの萌芽が減少し、衰退に向かっているかを確認することである。
 
 結果は写真のとおりで、想定内の結果だった。

 国交省北上川下流河川事務所や涌谷出張所、若生工業の皆様には、試験施工を立派に実施していただき、心より感謝すると同時に、イタドリの恒久対策に対する熱意に敬服しているところである。今後、この方法をイタドリ防止の恒久的対策や予防保全対策として、発展・普及させていただければ幸いである。

 なお、試験施工エリアでの経過観察は、イタドリの根絶に要する時間や、モグラなどの小動物の棲息防止の効果、除草量の低減効果、ガリ侵食防止効果などを確認するために、今後も続けていきたいと思っている。
2024年6月29日の全景状況。野芝の下に1mmのジオネットを敷設しているが、野芝は順調に生育している。一方、イタドリの芽は前年よりも激減してほとんど見られない。実験エリアの周りのイタドリは2m近くまで伸びている。(試験エリア内の除草はこの1年間未実施)ネットの継目は折り返し加工したものを採用したので、継目からの萌芽は発生していない。
前年の2023年7月7日の全景状況。2023年1月に1mmのジオネットを施工した試験施工エリア。イタドリの根は残置したので赤茶色の芽が30~40本ほど見える。野芝は一部に未活着な部分がある。(試験エリア内の除草は未実施)
2024年6月29日の状況。試験施工エリア内のイタドリ。前年に地下茎に養分を送ることができなくなり、発芽に必要な養分が少なかったので草丈は10㎝程度で止まった。成長が止まったイタドリは緑色になる。萌芽密度は前年よりかなり減った。ジオネットが地下茎への養分蓄積を確実に阻止したようだ。
前年の2023年7月7日の状況。施工後6か月経った試験施工エリア内のイタドリの様子。部分的に密集して萌芽していて、草丈は20~30㎝になっていた。この時点では地面の地下茎に十分な養分が残っていたらしい。イタドリが赤いのは成長途中を意味して、このイタドリはこの先も成長していく。
試験施工で使用したネット。1mmメッシュで継目を折り返し加工した製品は、タキロンシーアイシビル株式会社の独自の製品で他社では製造していない。継目を折り返し加工しているのは、継目に隙間ができないようにするためである。イタドリは少しでも隙間があるとそこから萌芽するからである。

奥はジオネットを敷設しているエリア。手前はジオネットを敷設していない試験施工エリアで、周辺からイタドリが迫るように萌芽している。数年後には一面にイタドリで覆われるものと思われる。
イタドリ対策の恒久対策であるジオネット工法と、従来工法とのLCCの比較を次の条件で行った。
 その結果、100年間で92,000円/m2のコスト高になることが分かった。

①、従来工法で野芝を張替えしても数年で再繁茂し補修が必要になる。
  過去の一般的な事例から張替えサイクルを10年と想定し、100年スパンのLCCを算定。

②、従来工法は、深さ50㎝での切土、土砂運搬、段切り、盛土、法面整形、
  野芝の張り付け作業があり、工事費ベースで9,000円/m2とし、これに除草費を加算する。

③ 除草費は、除草・集草・梱包・積み込み・積み下ろし・運搬費を含み、
  年3回実施で1年あた  り144円/m2とした。(東北地方整備局 河川維持工事より引用)
  ジオネット工法の場合は防草効果があるので、除草費は通常の50%とみなして
  1年あたり72円/m2で算出した。なお、刈草の焼却費用は省略した。

④ ジオネット工法は、深さ10㎝での土の入れ替え、法面整形、ジオネット張り付け
、   野芝の張り付けの4,500円/m2と試算した。

⑤ ジオネット工法は恒久的にイタドリを防御できると想定し、
  維持費として除草費(通常の50%)を加算した。

⑥ 単価は工事費(経費含み)とした。

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