2024年10月16日水曜日

粘り強い河川堤防よりも、堤防嵩上げが経済的

 令和元年の台風第19号で越水破堤が多発したことから、国土交通省の治水課は大学教授や土研の所長などによる検討会を設け、粘り強い河川堤防の検討を開始してからすでに4年経った。

 しかし、検討会からは粘り強い河川堤防の具体的な構造を生み出すことができなく、やむなく大学や企業から技術案を公募するという顛末となった。  公募は、越流水深が30㎝で3時間耐えられることが条件となった。
 応募された16件の技術のうち4件だけが一定の評価がつけられ、パイロット工事や試験施工の対象として今後取り扱われることになった。しかし、どの工法も覆土が必要なので、相当の費用がかかりそうなのが課題といえる。

 そこで思うのは、粘り強い河川堤防をめざすよりは、堤防の高さを嵩上げした方が合理的になるケースもあるかなということである。

   国交省の募集要項に示された堤防の天端幅5m、堤防高さ5m、のり勾配2割の条件で、堤防を50㎝嵩上げしたときの費用を試算してみた。公募条件の越流水深は30㎝だが、これに20㎝の余裕を持たせて嵩上げ高を50㎝としてみた。

   試算では腹付け盛土や法面工、舗装復旧を含めても10万円/1m(直工)程度で済みそうだ。

 一方、千曲川など台風第19号の復旧工事で施工された、堤防裏法面をブロックで固めた構造だと、25万円/1m(直工)を軽く越してしまう。この25万円/1mがあったら、堤防は1m近く嵩上げできる計算になる。堤防を1m嵩上すると越水の可能性は大幅に軽減するし、越水しなければ浸水被害も発生しないことになる。

 越流水深30㎝の条件だと、粘り強い河川堤防をめざすよりは、堤防を50㎝嵩上げして越水させない方が安全で経済的だ。

言い換えれば、今、国が検討している粘り強い河川堤防の構造は、堤防嵩上げとの経済比較が必要だということになる。もちろん、嵩上げして既存の橋梁や道路、宅地へ影響がないことが前提である。

 粘り強い河川堤防の整備は、堤防の嵩上げが物理的に不可能な箇所に限定して整備すべきとの声があがりそうである。
 
 大切なことは、流域住民がどちらを望むかである。 
 越流の可能性が軽減されて浸水のリスクの低い堤防の嵩上げがいいのか、家が浸水しても粘り強い堤防を望むのかの意向確認が必要であろう。
国総研のイメージする「粘り強い河川堤防」。しかし、越水したら家が浸水してしまう。「粘り強い河川堤防」に多額の予算を費やすよりは、コストが安くて浸水の可能性が低い嵩上げの方が、安心だと思う流域住民もかなり多いと思うのだが。

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