2026年5月22日金曜日

歩道の上の崖の対策 ①

 2020年2月5日、逗子市のマンションの敷地斜面の崩落により土砂が流れ落ち、その真下を歩いていた当時18歳だった女子高校生が巻き込まれて死亡する痛ましい事故が発生した。

 遺族はマンション区分所有者の住人や管理会社などに損害賠償を求め、2023年6月に住人側と遺族の和解が横浜地裁で成立した。

 また、業務上過失致死等の容疑でマンションの管理会社や区分所有者らを刑事告訴し、神奈川県警は「安全管理を怠った」として、当時、マンション管理会社の担当者だった男を業務上過失致死の疑いで書類送検された。(後に不起訴処分)

 逗子市の事件の書類送検の直後の2023年7月、私は、逗子市の事件と似たような法面の防災設計の管理技術者を任されることになった。

この設計業務で大切なことは、崖がなぜできたのかを突き止めることだと思った。もし崖が円弧すべりの滑落崖だとすれば、極めて危険な状態だからである。当然、下の道路は通行止めにしなければならない。

 過去の防災点検記録(防災カルテ)には、崖の上の民家の周りに敷かれた叩きコンクリートに多くのクラックがあり、敷地の地盤が軟弱で家が沈下している可能性があることを示唆していた。
 防災カルテの懸念は本当だろうか?

 まずは、なぜ崖ができたのかを探ることとした。

崩落したマンション敷地斜面。ブロック積み擁壁の下が歩道を女子高生は当時歩いていた=2020年2月7日、逗子市池子
私が2023年7月に役所から任された法面防災の設計業務。歩行者などの道路利用者の安全確保のための法面崩落防止対策である。逗子の法面に似た条件であり、同じ事故を繰り返してはならないと強く思った。これが仕事のモチベーションとなった。
法面には孟宗竹が繁茂していて、足を踏み入れるのが難しい状態だった。竹林のなかには崖がある。

2026年5月11日月曜日

沈下したブロック積み擁壁の補強設計 ⑥

 今回の現場の対策は、ブロック積み擁壁の沈下の防止と地震時の慣性力によるブロック積み擁壁の倒壊防止のどちらを取るかである。

 ブロック積み擁壁や道路が10㎝程度沈下しても大きな問題は出てこない。しかし、地震の時に慣性力でブロック積み擁壁が倒壊したら、周辺に人がいれば下敷きになってしまうし、道路は通行止めになってしまう。NTTの通信ケーブルも切断される可能性がある。

   だから、今回は地震が来ても倒壊しにくい補強が必要なのである。

 そのためには、地震のときに地山から擁壁が離れないようにすることが大切なのである。

 このことから、対策工法は次の写真のようになったのである。
頑丈な格子枠と鉄筋挿入により東大日本震災以上の揺れがあっても、ブロック積み擁壁は慣性力に耐えてくれるはずだ。「要・強・美」という言葉があるが、対策工は周辺の景観に対して違和感はなく、むしろ安心感を感じさせる構造物だといえる。
実際の対策工としての吹付法枠工。ヘッドキャップは通常はベル型だが、民家が近くて人が近づくようなところは、写真のような皿型が望ましい。
鉄筋の長さは3.0m。埋設されているNTT管まであと0.5mだった。

2026年5月7日木曜日

沈下したブロック積み擁壁の補強設計 ⑤

地山補強土工と構造が似ている工法にグランドアンカー工がある。

グランドアンカー工は地中の岩盤層にアンカーの先端を定着させ、アンカーに緊張力をかけて法面を地盤に縫い付ける工法である。

しかし、地山補強土工は数多い鉄筋で法面を固めて仮想擁壁を築造する方法であり、そのアンカーに緊張をかけることはしない。法面を固めるためには鉄筋の間隔をあまり広くすることはできない。

通常は1.0mで地山が軟岩以上の地山の場合は1.5mにしている。

鉄筋の最小長さは道路の場合は2.0m程度となっている。鉄道基準では1.5m以上を採用している。

一方、最大長さは施工機械のサイズの制約で5mが一般的である。

これ以上長い場合はグランドアンカー工との比較検討が必要になるれことが多い。
アンカーの間隔が広いので、これはグランドアンカー工になる。
アンカーの間隔が狭いので地山補強土工である。