2021年11月10日水曜日

耐越水シートの開発 (22) 法尻ブロックの隙間の雑草が大問題(2)

 1枚目の写真は、危機管理型ハード対策で設置された法尻の連結ブロックで、施工後2年目である。ブロック同士の間にはどうしても5㎝程度の隙間が発生する。また、連結部には約15㎝四方のスペースがある。隙間は排水や排気しやすいようにするためと、災害時に転用しやすいようにコンクリートなどを充填しないのが一般的である。

 連結ブロックの下には吸い出し防止シートが敷かれている。

 雑草は幹の直径の100~150倍の草丈になる。ブロックの隙間に溜まった枯れ草や泥を養分にして、吸い出し防止シートから水分を吸って、雑草は1.5㍍程まで成長する。連結部ではもっと草丈の高い雑草が生えることが可能である。雑草だけでなくヤナギやクズなどの木も生えてくる。

 2枚目の写真は、施工後4~5年目の連結ブロックの隙間の雑草を除草した後のものである。除草は鎌で手刈りするので、ブロックの高さよりも短くすることはできない。雑草がヨモギの場合、地下茎が残っているので、毎年少しずつ幹が太って草丈が徐々に伸びていく。雑草が枯れて隙間に堆積し、それを養分にして、さらに雑草は茂っていくというプロセスになる。

 このように、連結ブロック面が雑草に覆われていくには、4~5年程かかるので、転勤サイクルが2年の河川管理者には想像もつかないのは無理もない。

2021年10月13日水曜日

耐越水シートの開発(21) (法尻ブロックの隙間の雑草が大問題に)

 下の写真は、危機管理型ハード対策として施工し、3~4年経過した護岸ブロックの状況である。
 ブロックの隙間や、連結金具周辺から高さ50㎝~70㎝ほどの雑草が茂っている。
 ブロックの下には吸出し防止材が施工されているはずだが、それにも関わらず雑草がブロックを覆う。

 この雑草の除草は自走式の除草機では不可能だ。また、肩掛け式の除草機でも、刃がブロックの隙間に入らないので除草は不可能に近い。無理に作業すると刃がブロックにあたりボロボロになってしまう。

  したがって、国交省の河川を管理する出張所では、人力作業で雑草を引き抜いたり鎌で刈ったりしている。法尻ブロックは越流水の流速を弱めるために表面が凹凸状になっているが、除草作業員たちは、足場の悪いブロックの凹凸面を気にしながら、高コストで危険な除草作業しているのである。これは実際に自分で体験しないと分からないことではあるが。

 国交省はかつて5ヶ年計画で、越水に対し「粘り強い堤防」を実現するために、全国で630㎞を法尻ブロックで補強をした。また、令和元年の台風第19号で破堤した現場では、再度災害防止のために川裏の全部の法面をブロックで覆った現場が多い。こうした現場では4~5年後に除草の問題が噴出することになる。

 現在、国交省は危機管理型ハード対策の効果を上回る「粘り強い河川堤防」の構造検討を実施しているが、環境及び景観との調和や維持管理の容易性、コストなどが重点課題として掲げられている。

  しかし、ブロック張にした場合に、雑草の繁茂による景観の阻害や、容易でない除草作業、コスト高になることは必然であり、これをどのように判断し最良の工法を選択するかが課題となっている。

  法尻ブロックの凹凸面の上を歩くだけでも危険で、まして、除草作業は極めて危険だ。

2021年9月2日木曜日

耐越水シートの開発⑳ (国交省の検討方針 ~その2~)

 令和3年3月14日に開催された土木学会の基礎水理シンポジウムで、国内の越水対策のリーダーのひとりでもある、国土交通省の国総研河川研究室長の福島雅紀氏は、現在検討中の粘り強い河川堤防の構造は下図のように、①表面被覆型、②断面拡大型、③一部自立型の3種類だとしている。

 国総研は令和2年10月に、大学や企業を対象として「越水に対する河川堤防の強化構造の検討に資する評価技術の開発」というテーマで、技術開発を公募した。予算は2年間で2000万円を上限とするものであるが、7件の応募があり東京工業大学、京都大学、(株)富士ピー・エスの3者の研究テーマが採択された。

 裏法面をブロックやシートで覆う「表面被覆型」では、京都大学の肥後陽介教授が越流侵食の粘り強さの評価手法と、実装フレームワークの開発を2年かけて行うこととなった。この成果を基にしてブロックやシートなどの効果実証が進められる予定だ。

「表面被覆型」は、ブロック、シート、かご、改良土、張芝等の資材で堤防裏法面の侵食を遅らせて、粘り強い堤防を実現しようとするものだが、前述(耐越水シートの開発⑲)の国交省の検討会資料では、ブロック、シートのみが表示されており、真意は不明だ。

 全国の直轄や自治体管理の膨大な延長の河川を対象に、粘り強い堤防を短期間で整備することが喫緊の課題となっているが、そのためには構造をシンプルにして施工性を向上させ、かつコストを抑え、さらに景観との調和や維持管理のしやすい工法を選択することが求められる。もちろん、一定の耐侵食性能を兼ね備えて粘り強さを発揮できることは越水対策の基本でもある。

2021年8月25日水曜日

耐越水シートの開発⑲ (国交省の検討方針 ~その1~)

 国土交通省は令和2年6月12日に、「令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会」(座長・山田正中央大理工学部教授)の第3回の会合を行い今後の越水対策の方針案を議論した。その中で「緊急的・短期的な河川堤防の強化方策の方向性」として、下記のような方針が示された。

 検討会は今後の越水対策について、「越水した場合であっても堤防が決壊するまでの時間を少しでも引き延ばす」という、現行の危機管理型ハード対策の概念を発展的に踏襲し、さらなる引き延ばし効果を有する「粘り強い河川堤防」を目指すべきだと結論づけた。

 下の表は、国交省が検討会の意見をイメージ化したもので、最下段の部分が検討会の目指す「粘り強い河川堤防」になる。

 表中の赤枠の「粘り強い河川堤防」には、危機管理型ハード対策としての天端舗装と裏法尻補強の間に、新たに被覆工が施されている。この表の被覆工はブロックやシートだと明記されており、これらにより粘り強さが向上し、危機管理型ハード対策(天端舗装+法尻ブロック)よりも、決壊するまでの時間を延ばすことを目指す。決壊するまでの時間を引き延ばすことができれば、その分だけ避難活動の時間が増え、被害の拡大を防止できるからだ。

 つまりは、越水対策の大原則は、洪水時の河川水位を下げることではあるが、この大原則の解消が当面困難な箇所においては、ブロックやシートなどで堤防をより粘り強くして、決壊までの時間を延ばすことを目指すという。

 危機管理型ハード対策は平成28年度から5ヶ年計画で、全国の直轄が管理する河川を対象に天端舗装が1310㎞、法尻ブロック補強が630㎞計画され、全国各地で急ピッチで整備が進められた。膨大な予算を投じて先行的に整備されたこれらの施設は、当然ながら今後の越水対策にも活用されることが重要であるから、緊急的・短期的な取り組み手法は、危機管理型ハード対策として整備された、法尻ブロックを大幅に改変しない構造で検討することか望まれるのである。
 
 
 国土交通省の検討会の資料。表は危機管理型ハード対策と粘り強い河川堤防の違いを示している。この表の右下には小文字で「ブロック・シートによる法面保護工により粘り強さが向上し、決壊に至るまでの時間を長くするなどの減災効果を発揮」と今後の方向性が示されている。

2021年8月11日水曜日

耐越水シートの開発⑱ (体験実習施設として導入)

 国土交通省の東北地方整備局河川部は、河川管理担当者等を対象に点検技術の向上に役立ててもらおうと、令和元年に東北技術事務所の構内へ、堤防や樋門などの体験型実習施設を整備した。
 それぞれの施設には、ひび割れや法崩れなどの変状や異常があらかじめいくつかセットされていて、河川管理者だけでなく、設計コンサルタントや建設会社の社員なども体験学習できるようになっており、写真撮影した時にも自治体の職員が研修していた。

 下の写真は、堤防の構造が理解しやすいように堤防断面を現わしたものだが、芝の下に敷かれている黒いシートが、耐越水シートと同じ1mmメッシュの高密度ポリエチレン製の網のジオネットである。 (メーカーのタキロンシーアイシビルでは「ネトロンシート」と呼んでいる、NETIS KT-180089-A )

 ただし、東北技術事務所がジオネットを導入したのは、イタドリやセイタカアワダチソウなどの強害雑草の成長を抑制して、堤防除草の回数を減らすのが目的。これにより堤防の点検がしやすくなる効果もある。つまり、ジオネットは雑草の成長抑制と耐越水性の両方の効果が期待できるのである。

 芝はトヨタが開発したTM-9と呼ばれる改良芝が張られている。単価は通常の倍ほどするが草丈は通常の半分以下という。ネトロンシートと張芝の施工単価は経費込みで3500円程度ですむ。

 越水対策には以下の課題の克服が求められ、今後、国土交通省の治水課、国総研や土木研究所、国土技術研究センターなどが関係業界団体やメーカー、学会、大学などと情報交換をして知恵を絞りながら、表面被覆型(ブロックやシートなど)や断面拡大型、一部自立型の3種類について研究がすすめられることとなっている。
①、粘り強さの向上
②、維持管理の容易性
③、施工性
④、提体との一体性やなじみ
⑤、不同沈下に対する修復の容易性
⑥、損傷時の修復の容易性
⑦、環境・景観との調和
⑧、低コスト
⑨、危機管理型ハード対策を活かすこと、

東北技術事務所の堤防の体験実習施設。法面の一部では点検技術の向上のため、ジオネットを外してイタドリがわざと植えてある。施工後2年経過したが、今のところ除草はしていないものの、セイタカアワダチソウやヨモギなどの雑草をコントロールできており、除草不要のメンテナンスフリーが続いている。

2021年5月25日火曜日

耐越水シートの開発⑰ (無数のアンカーが頑張る)

 耐越水シートに必要な条件は、シートが堤防法面に密着して剥がれにくいことだ。

 1mmメッシュのジオネットには1m2当たりに100万個の穴(網目)がある。その穴を芝の根毛や根が突き抜けて堤防法面に延びていく。

 つまりは、根毛が無数のアンカーピンとなって頑張るので、ジオネットと堤防法面が一体化するということである。

このような状態で越水が発生しても、芝の葉とジオネットで流速が低下し、芝の根毛が無数のアンカーとなって、水圧や流速に粘り強く対抗して侵食やシートの剥落を防ぐのである。芝の根毛の太さは0.2~0.4mmほど。網目の大きさは1mmなので根毛が通過すると、網目はほぼ塞がり侵食防止効果が向上することになる。


   【写真】ジオネットの網目から這い出た芝の根毛。この根毛がアンカーピンの代わりに頑張って法面と一体化する。   

2021年5月7日金曜日

耐越水シートの開発⑯ (コンクリートだらけの堤防)

   東日本大震災で被災した岩手県や宮城県、福島県の河口に近い河川の堤防は、下の写真のように川表と天端、 川裏がコンクリートで固められている。津波の破壊力に耐えるためには、固いコンクリートで覆うのが最も安心 である。

しかし、そうは言えども、コンクリートの堤防の上に立ってみると、妙に落ち着かない。

  「兎追いし彼の山、小鮒釣りし彼の川」と謳い慣れた日本の景色はここにはないのだ。山高く水清しと表現さ れるような、日本の原風景は感じられないのである。

  コンクリートで三方を固めることは否定しないものの、コンクリートをむき出しにするのは抵抗感がある。

  せめてコンクリートの上に覆土するとか、多自然型護岸ブロックの活用ができないものかと思う。

  越水による堤防の裏法面の侵食防止方法としても、コンクリートブロック張は最も有効であろう。

しかし、コンクリートブロック張と覆土工を合わせた工事費用は多額であり、とても国内の多くの河川の 強靭化を進めることは難しい。

  耐越水性を確保しつつ、維持管理しやすく、多自然型川づくりを低コストで実現できる工法が求められて いる。
堤防のすべての面がコンクリートで覆われた堤防。日本の美しい川づくりを標榜する国交省だが、越水対策としてどのような粘り強い堤防づくりを目指すのか問われている。