秋になると道路や堤防などに黄色い花が一面に咲く。セイタカアワダチソウだ。
北アメリカ原産の帰化植物で、もともとは観賞用に導入されたとの説もあるが、急速に広がったのは第二次世界大戦後。蜜源植物として養蜂業者が積極的に種子を散布したとの話もある。現在は、環境省が要注意外来生物リストに載せている植物だ。
種子と地下茎の両方で増え、在来の植物とは比べ物にならない旺盛な繁殖力を持つ。河川敷など栄養豊富な土壌では10本近い地下茎を伸ばし、そこから地上に向かって伸び始める。
種子繁殖も旺盛で、1株あたり平均で3000個のタンポポのような羽毛を持つ種を風に乗せて飛ばし、日当たりがよければやせた土地でも湿地でも発芽、増殖する。
根と地下茎からアレロパシー物質(他の植物の種子発芽や成長を妨げる物質)を出し、他の植物が生育することを妨げ、自身は地下茎からどんどんと芽を出して増えていく。このため、繁殖を始めた場所では日本の在来植物の姿がほとんど見えなくなり、やがてセイタカアワダチソウだけが繁茂するようになる。
堤防法面にセイタカアワダチソウが繁茂すると、裸地化してガリ侵食を引き起こしかねないし、道路だと視距を阻害するなどと嫌われている。
いままでの駆除方法はただひとつ。原始的な手法であるが抜き取りだけだった。
1mmメッシュのジオネット(高密度ポリエチレン製の網)は、イタドリ対策と同様にセイタカアワダチソウの繁茂を防止できる予防保全技術であり、今までの原始的な作業から解放が可能である。
高速道路の法面のセイタカアワダチソウ。除草量が多く景観を阻害する。
市民ボランティアによる抜き取り作業。抜き取っても少しでも地下茎が残れば、そこから繁茂が始まる。
セイタカアワダチソウの地下茎。
国交省に40年間在職し、堤防の厄介モノであるイタドリやセイタカアワダチソウを、ジオネットと呼ばれる樹脂製の網で、恒久的に成長を抑制するコスト削減手法を開発。ジオネットはモグラやキツネの防止、越水による侵食の防止効果もあり、堤防の強靭化に貢献できます。 また、従来の5分の1程度のコストや電力量で融雪効果が発揮できる、超省エネ型ロードヒーティング(別名ライン型ロードヒーティング)も開発。この二つの技術をメインに、技術士としての残り少ない日々の想いを綴って技術伝承し、少しでも社会に貢献できればと願っています。 (連絡先 atk.shimazu@gmail.com)
2023年4月27日木曜日
2023年4月26日水曜日
2.堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ、アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策
関東地方整備局の渡良瀬川河川事務所が管理する桐生川の堤防には、イノシシが多く出没して堤防法面を掘り返す被害が多発していた。
イノシシは野芝などの根が好物らしく、堤防法面が穴ぼこだらけになって河川管理上の大きな問題になっていた。
事務所では平成27年ごろに対策委員会を設置して、平成28年8月ごろから平成31年2月ごろまでに、高密度ポリエチレン製の網(ジオグリット)を堤防の法面に敷き、その上に野芝を張ってイノシシが掘り返さない対策を講じた。その対策面積はおよそ20万m2にも及ぶ。
これは河川堤防では先進的で具体的な「予防保全」といえる。しかも大規模に実施されているから凄い。この事業を迅速に採択した渡良瀬川河川事務所の英断に拍手を贈りたい。
イノシシはジオグリットの上に張られた野芝は剥がすが、好物の野芝の根はジオグリットの下にあるので途中で諦めてしまうらしい。イノシシの去った後には剥がされた野芝が散乱しているので、維持業者が直ぐに補修することになる。ジオグリットが敷かれているから深くは掘り返えすことができないので、未対策の時と比べると補修作業はかなり軽減されたとのことである。
イノシシによる堤防の損傷は桐生川だけでなく、全国の各地で発生しているようだが、渡良瀬川河川事務所のこの予防保全対策には及ばない。他の整備局ではこれほど思い切ったことはできない。いまだにイノシシがいたずらした穴を日がな一日かけて埋めて回っている。科学が進化した現代において情けないことだと作業員たちも感じているだろう。
おそらくは、国内の河川管理者の皆さんは渡良瀬川河川事務所のこうした取り組みを知る由もないだろう。予防保全が功を奏した渡良瀬川の対策は、全国に展開されてしかるべきものだと思う。
イタドリやブタクサ、セイヨウカラシナ、セイタカアワダチソウ、モグラ、キツネなどに対する予防保全は、地味かもしれないが河川行政の基本的な課題だ。渡良瀬川河川事務所のように迅速な英断が求められる。
桐生川出張所のホームページに示されたイノシシ対策。 ジオグリットの網目が粗いのでイタドリの防草効果はなく、イノシシやモグラの防止が専門の対策となっている。仮に目合いを1mmにするとイタドリやセイタカアワダチソウなども防止でき、一石五鳥が実現すると思うのだが…。
イノシシは野芝などの根が好物らしく、堤防法面が穴ぼこだらけになって河川管理上の大きな問題になっていた。
事務所では平成27年ごろに対策委員会を設置して、平成28年8月ごろから平成31年2月ごろまでに、高密度ポリエチレン製の網(ジオグリット)を堤防の法面に敷き、その上に野芝を張ってイノシシが掘り返さない対策を講じた。その対策面積はおよそ20万m2にも及ぶ。
これは河川堤防では先進的で具体的な「予防保全」といえる。しかも大規模に実施されているから凄い。この事業を迅速に採択した渡良瀬川河川事務所の英断に拍手を贈りたい。
イノシシはジオグリットの上に張られた野芝は剥がすが、好物の野芝の根はジオグリットの下にあるので途中で諦めてしまうらしい。イノシシの去った後には剥がされた野芝が散乱しているので、維持業者が直ぐに補修することになる。ジオグリットが敷かれているから深くは掘り返えすことができないので、未対策の時と比べると補修作業はかなり軽減されたとのことである。
イノシシによる堤防の損傷は桐生川だけでなく、全国の各地で発生しているようだが、渡良瀬川河川事務所のこの予防保全対策には及ばない。他の整備局ではこれほど思い切ったことはできない。いまだにイノシシがいたずらした穴を日がな一日かけて埋めて回っている。科学が進化した現代において情けないことだと作業員たちも感じているだろう。
おそらくは、国内の河川管理者の皆さんは渡良瀬川河川事務所のこうした取り組みを知る由もないだろう。予防保全が功を奏した渡良瀬川の対策は、全国に展開されてしかるべきものだと思う。
イタドリやブタクサ、セイヨウカラシナ、セイタカアワダチソウ、モグラ、キツネなどに対する予防保全は、地味かもしれないが河川行政の基本的な課題だ。渡良瀬川河川事務所のように迅速な英断が求められる。
桐生川出張所のホームページに示されたイノシシ対策。 ジオグリットの網目が粗いのでイタドリの防草効果はなく、イノシシやモグラの防止が専門の対策となっている。仮に目合いを1mmにするとイタドリやセイタカアワダチソウなども防止でき、一石五鳥が実現すると思うのだが…。
2023年4月20日木曜日
1.堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策
予防保全
最近この言葉を聞くことが少なくなったような気がする。問題が発生してから、その解決に奔走するのが事後保全。
予防保全とかライフサイクルコストという言葉が、業界紙を賑わしたのは今から20年ほどの昔しになった。
その後10年ほど経ってから道路インフラの点検が義務化になり、橋梁やトンネルなどは5年ごとに点検し、健全度評価をすることになっている。計画的に修繕をつづければ耐用年数が大幅に伸びるので、この政策は予防保全やライフサイクルコストの低減が基本になっている。
橋梁の床版にはコンクリートの劣化を遅らせるために、防水シートを張ったり防水塗装が施されている。今から30年ほど以前から実施されていて、これは予防保全のはしりといっていい。
鉄筋の表面をエポキシ樹脂で塗装し、塩分により腐食しにくいようにするのも予防保全だ。100年橋梁もだ。
このように、道路インフラでは予防保全が多く実践されている。その一方で、河川のインフラではどうだろうか。
イタドリが繁茂して堤防の裸地化が目だち、洪水になったら危険なので堤防法面を50cm以上掘り返し、段切して芝を張り替える。これは事後保全。除草剤の散布や注入も事後保全だ。
堤防にモグラが棲みついて穴だらけになり、洪水になったら堤防決壊の原因になりかねないと慌てて掘り返して補強するのも事後保全。ライフサイクルコストの面で、堤防構造は昔からほとんど進化していないような気がする。
しかし、今、河川でも予防保全が動きだしている。
越水が発生しても粘り強い堤防にしようと国交省が検討会を発足させた。
令和2年2月に、日本の河川堤防技術のトップである国土交通省の治水課が事務局となり、河川堤防の権威である大学の教授や元国総研の所長などが招集された。検討会は2年かけて越水に対して粘り強い堤防構造を模索したが、具体的な技術を確立することができず、令和4年5月に同じメンバーで、「河川堤防の強化に関する技術検討会」を立ち上げ、民間や大学等から技術提案を募ることになった。
堤防構造の国内トップの権威者たちが集まって知恵を出し合い、喧々諤々の議論を重ねても具体的な技術にたどり着けなかった越水対策は、民間と大学の研究者に委ねられたことになった。それほど越水対策は難問なのである。しかし、それでも予防保全の実践という意味では大きな前進だ。
ジオネット(高密度ポリエチレン製のネット)で、堤防のイタドリやブタクサ、セイヨウカラシナ、セイタカアワダチソウ、ススキ、ヨモギ、セイバンモロコシ、アレチウリ、モグラ、キツネ、イノシシ、越水対策に取り組んでから8年が過ぎた。これらは予防保全だ。思えば長いようで、そして短いようでもあった。しかし、この予防保全の技術の知名度はまだまだ低い。ジオネットの存在を知らない技術者は多い。
ジオネットによる技術は、イタドリや西洋カラシナ(菜の花)、ブタクサ、セイタカアワダチソウなどの強害雑草の防止だけでなく、ガリ侵食防止、モグラやキツネ、イノシシなどの生息防止など、一石五鳥にもなる。
そして、コンクリートブロックのように景観を阻害することもない。覆土もいらないのでコストは極めて安い。
さらに、越水に強いことが証明できれば、強力な予防保全技術の確立が実現することになるが、検討会への応募条件は、高さ2mの堤防が築造し越水に強いことを水理実験で証明しなければならない。これには膨大な費用がかかるので個人では不可能だ。
夢の予防保全技術への道はなかなか遠い。
イタドリ防止のためのジオネットの張り付け作業の見学会。予防保全の取り組みが始まろうとしている。
最近この言葉を聞くことが少なくなったような気がする。問題が発生してから、その解決に奔走するのが事後保全。
予防保全とかライフサイクルコストという言葉が、業界紙を賑わしたのは今から20年ほどの昔しになった。
その後10年ほど経ってから道路インフラの点検が義務化になり、橋梁やトンネルなどは5年ごとに点検し、健全度評価をすることになっている。計画的に修繕をつづければ耐用年数が大幅に伸びるので、この政策は予防保全やライフサイクルコストの低減が基本になっている。
橋梁の床版にはコンクリートの劣化を遅らせるために、防水シートを張ったり防水塗装が施されている。今から30年ほど以前から実施されていて、これは予防保全のはしりといっていい。
鉄筋の表面をエポキシ樹脂で塗装し、塩分により腐食しにくいようにするのも予防保全だ。100年橋梁もだ。
このように、道路インフラでは予防保全が多く実践されている。その一方で、河川のインフラではどうだろうか。
イタドリが繁茂して堤防の裸地化が目だち、洪水になったら危険なので堤防法面を50cm以上掘り返し、段切して芝を張り替える。これは事後保全。除草剤の散布や注入も事後保全だ。
堤防にモグラが棲みついて穴だらけになり、洪水になったら堤防決壊の原因になりかねないと慌てて掘り返して補強するのも事後保全。ライフサイクルコストの面で、堤防構造は昔からほとんど進化していないような気がする。
しかし、今、河川でも予防保全が動きだしている。
越水が発生しても粘り強い堤防にしようと国交省が検討会を発足させた。
令和2年2月に、日本の河川堤防技術のトップである国土交通省の治水課が事務局となり、河川堤防の権威である大学の教授や元国総研の所長などが招集された。検討会は2年かけて越水に対して粘り強い堤防構造を模索したが、具体的な技術を確立することができず、令和4年5月に同じメンバーで、「河川堤防の強化に関する技術検討会」を立ち上げ、民間や大学等から技術提案を募ることになった。
堤防構造の国内トップの権威者たちが集まって知恵を出し合い、喧々諤々の議論を重ねても具体的な技術にたどり着けなかった越水対策は、民間と大学の研究者に委ねられたことになった。それほど越水対策は難問なのである。しかし、それでも予防保全の実践という意味では大きな前進だ。
ジオネット(高密度ポリエチレン製のネット)で、堤防のイタドリやブタクサ、セイヨウカラシナ、セイタカアワダチソウ、ススキ、ヨモギ、セイバンモロコシ、アレチウリ、モグラ、キツネ、イノシシ、越水対策に取り組んでから8年が過ぎた。これらは予防保全だ。思えば長いようで、そして短いようでもあった。しかし、この予防保全の技術の知名度はまだまだ低い。ジオネットの存在を知らない技術者は多い。
ジオネットによる技術は、イタドリや西洋カラシナ(菜の花)、ブタクサ、セイタカアワダチソウなどの強害雑草の防止だけでなく、ガリ侵食防止、モグラやキツネ、イノシシなどの生息防止など、一石五鳥にもなる。
そして、コンクリートブロックのように景観を阻害することもない。覆土もいらないのでコストは極めて安い。
さらに、越水に強いことが証明できれば、強力な予防保全技術の確立が実現することになるが、検討会への応募条件は、高さ2mの堤防が築造し越水に強いことを水理実験で証明しなければならない。これには膨大な費用がかかるので個人では不可能だ。
夢の予防保全技術への道はなかなか遠い。
イタドリ防止のためのジオネットの張り付け作業の見学会。予防保全の取り組みが始まろうとしている。
2023年4月17日月曜日
越水対策の行方 また洪水の季節がやってくる
国交省は一昨年、越水対策の先駆けとなるパイロット工事を、全国で16か所実施した。(下の表参照)
ほとんどが堤防法面をコンクリートブロックで覆う工法の、いわゆるブロックの三面張りだが、佐賀県の嘉瀬川だけはジオテキスタイルに植生を組み合わせたシート工法を採用している。具体には日本植生のグリットシーバーという製品だ。
グリッドシーバーは、目合いが8mmで3.0m×0.9mのジオネットにポリエステル製の不織布を接着させたものを圃場に敷き、それに芝の種や肥料を散布し芝を生育させた後に剥がして生産される。堤防ではこれを敷いてアンカーピンで固定する。不織布に芝の根がからんでいるので、流速5m/秒にも耐えられるという。価格は、日本植生のカタログではコンクリートブロックの半分以下で済みそうだ。ブロックの三面張りが200万円/mだとしたら、グリットシーバーだと半分の約100万円/m程度になる。
グリッドシーバーの長所は、コンクリートブロックのように覆土しなくても、多自然川づくりの基本である自然環境を維持できる。これがコンクリートブロックで覆う場合は、覆土が必然的に必要になるので、その分のコストがかかってくる。覆土するとブロックの点検が難しくなる。検討会が求める越水対策技術には点検が容易に行えることも条件になっているので、この点でもグリッドシーバーは有利だ。
嘉瀬川を管理する国交省の武雄河川事務所では、グリットシーバーを施工後に現場で通水試験を行い、耐侵食性の確認を行っている。国交省が示す越流水深は30㎝だが、現地でその水量を確保するのが難しかったらしく、越流水深は8㎝となったが、十分な耐侵食性を確認している。 越水対策技術は現在、業界や大学等を対象として一般財団法人国土技術研究センターが技術募集していて、早ければ年度内には評価リストがまとまる予定だが、季節は巡り、また出水期に入ってしまった。
低コストで広く、そして速やかに施工できる対策が待ち遠しいと思うのは私だけではない。流域住民も同じく思っているはずだ。
グリッドシーバーは、目合いが8mmで3.0m×0.9mのジオネットにポリエステル製の不織布を接着させたものを圃場に敷き、それに芝の種や肥料を散布し芝を生育させた後に剥がして生産される。堤防ではこれを敷いてアンカーピンで固定する。不織布に芝の根がからんでいるので、流速5m/秒にも耐えられるという。価格は、日本植生のカタログではコンクリートブロックの半分以下で済みそうだ。ブロックの三面張りが200万円/mだとしたら、グリットシーバーだと半分の約100万円/m程度になる。
グリッドシーバーの長所は、コンクリートブロックのように覆土しなくても、多自然川づくりの基本である自然環境を維持できる。これがコンクリートブロックで覆う場合は、覆土が必然的に必要になるので、その分のコストがかかってくる。覆土するとブロックの点検が難しくなる。検討会が求める越水対策技術には点検が容易に行えることも条件になっているので、この点でもグリッドシーバーは有利だ。
嘉瀬川を管理する国交省の武雄河川事務所では、グリットシーバーを施工後に現場で通水試験を行い、耐侵食性の確認を行っている。国交省が示す越流水深は30㎝だが、現地でその水量を確保するのが難しかったらしく、越流水深は8㎝となったが、十分な耐侵食性を確認している。 越水対策技術は現在、業界や大学等を対象として一般財団法人国土技術研究センターが技術募集していて、早ければ年度内には評価リストがまとまる予定だが、季節は巡り、また出水期に入ってしまった。
低コストで広く、そして速やかに施工できる対策が待ち遠しいと思うのは私だけではない。流域住民も同じく思っているはずだ。
2023年4月11日火曜日
越水対策の行方 国交省が技術募集を開始
国土交通省は、「粘り強い河川堤防の技術」の開発のために、一般財団法人国土技術開発センターを窓口にして、令和5年3月10日から越水対策技術を公募することとした。
公募に先立ち、募集要項に対する意見を募集したところ、5つの業界団体と6つの民間企業、1つの大学、3人の一般人の合計15者から寄せられた。
その意見の中で特に目を引くのが、高さ2m以上の堤防を築造して30cmの水深で越流させて実験することに対し、実験施設の整備が難しいので再考を求めるというものだった。 国内の大学では、高さ2m以上の堤防を築造できるほどの水理実験場は皆無らしい。
堤防の越水対策を熱心に研究している大学は、埼玉大学や東京理科大学などいくつかあるが、このままでは、大学から越水対策の技術提案ができなくなる可能性がある。
提案された越水対策技術は、国交省や検討会が評価を行い、それらをまとめた評価リストを作成する予定だ。この評価リストを参考に国交省や県などが、越水対策工事を発注するという流れのようだ。
越水対策をどこで整備するかは、今後、検討会で議論し対象が示されることになっている。
河川の堤防は何のために築造されたか。答えは簡単だ。洪水が溢れないようにするためだ。だから、洪水が溢れては困るところに堤防が整備されている。越水破堤は堤防のあるところで発生する。堤防のないところでは越水破堤は発生するはずがない。したがって、越水対策はすべての堤防で実施されるべきなのかもしれない。
国交省は2016年から五か年計画で、越水に対し粘り強くさせようとして、全国の約630㎞の川裏の法尻を連結ブロックで補強した。
しかし、その補強された約630㎞の区間で実際に越水が発生したのは、都幾川の100mぐらいだけであり、越水の発生個所を高確率で予想することはかなり難しいようだ。けっきょく、河川管理者は越水対策はすべての堤防を越水のために補強しないと安心できなくなるはずだ。
しかし、すべての堤防を粘り強くさせるには、膨大な予算が必要だ。
仮に川裏をすべてブロックを敷き覆土する場合、当然ながら川表も同様にしなければならなくなる。こうなると1mあたり100万円は軽く超えてしまう。現状の国交省の予算規模では完成まで数十年かかるだろう。けれど、越水による破堤は年ごとに増加を続けているのだから、数十年も待ってはいられない。
繰り返しになるが、検討委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)の、「日経コンストラクション」の2017年6月12日号のインタビューで述べた言葉だ。
藤田氏宣う、「法面への植生も意外に効く。条件がよければ、流速5~6m/秒でも10時間は持つ。簡素な構造だから、施工にそれほど費用がかからない。さらに対策距離を結構稼げる。減災の恩恵を早く普及させるために重要な視点だ」
まさに慧眼といえる。植生だとコンクリートで覆うよりも数十分の一の費用で済む。
しかし、植生のみでは洪水に流されやすい。そうであれば、ジオテキスタイルなどで植生の根と絡ませれば、簡単には流されない。藤田氏は国総研時代に植生とジオテキスタイルを組み合わせた「侵食防止シート」を開発し特許を取得している。ジオテキスタイルの中に砂を注入して、そのあとに種子吹付をする方法で、なかなか手間がかかる。
そこまでごつくする必要はないが、ジオネットの上に野芝を張るだけでも水流に流されにくくなる。この方法だと藤田氏の夢である減災の恩恵をかなり早く普及できるのではないかと考えている。
検討委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)。
藤田氏は、堤防の植生に一定の耐侵食機能があることに着目して、国総研時代に植生とジオテキスタイルを組み合わせた「侵食防止シート」を開発し特許を取得している。
公募に先立ち、募集要項に対する意見を募集したところ、5つの業界団体と6つの民間企業、1つの大学、3人の一般人の合計15者から寄せられた。
その意見の中で特に目を引くのが、高さ2m以上の堤防を築造して30cmの水深で越流させて実験することに対し、実験施設の整備が難しいので再考を求めるというものだった。 国内の大学では、高さ2m以上の堤防を築造できるほどの水理実験場は皆無らしい。
堤防の越水対策を熱心に研究している大学は、埼玉大学や東京理科大学などいくつかあるが、このままでは、大学から越水対策の技術提案ができなくなる可能性がある。
提案された越水対策技術は、国交省や検討会が評価を行い、それらをまとめた評価リストを作成する予定だ。この評価リストを参考に国交省や県などが、越水対策工事を発注するという流れのようだ。
越水対策をどこで整備するかは、今後、検討会で議論し対象が示されることになっている。
河川の堤防は何のために築造されたか。答えは簡単だ。洪水が溢れないようにするためだ。だから、洪水が溢れては困るところに堤防が整備されている。越水破堤は堤防のあるところで発生する。堤防のないところでは越水破堤は発生するはずがない。したがって、越水対策はすべての堤防で実施されるべきなのかもしれない。
国交省は2016年から五か年計画で、越水に対し粘り強くさせようとして、全国の約630㎞の川裏の法尻を連結ブロックで補強した。
しかし、その補強された約630㎞の区間で実際に越水が発生したのは、都幾川の100mぐらいだけであり、越水の発生個所を高確率で予想することはかなり難しいようだ。けっきょく、河川管理者は越水対策はすべての堤防を越水のために補強しないと安心できなくなるはずだ。
しかし、すべての堤防を粘り強くさせるには、膨大な予算が必要だ。
仮に川裏をすべてブロックを敷き覆土する場合、当然ながら川表も同様にしなければならなくなる。こうなると1mあたり100万円は軽く超えてしまう。現状の国交省の予算規模では完成まで数十年かかるだろう。けれど、越水による破堤は年ごとに増加を続けているのだから、数十年も待ってはいられない。
繰り返しになるが、検討委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)の、「日経コンストラクション」の2017年6月12日号のインタビューで述べた言葉だ。
藤田氏宣う、「法面への植生も意外に効く。条件がよければ、流速5~6m/秒でも10時間は持つ。簡素な構造だから、施工にそれほど費用がかからない。さらに対策距離を結構稼げる。減災の恩恵を早く普及させるために重要な視点だ」
まさに慧眼といえる。植生だとコンクリートで覆うよりも数十分の一の費用で済む。
しかし、植生のみでは洪水に流されやすい。そうであれば、ジオテキスタイルなどで植生の根と絡ませれば、簡単には流されない。藤田氏は国総研時代に植生とジオテキスタイルを組み合わせた「侵食防止シート」を開発し特許を取得している。ジオテキスタイルの中に砂を注入して、そのあとに種子吹付をする方法で、なかなか手間がかかる。
そこまでごつくする必要はないが、ジオネットの上に野芝を張るだけでも水流に流されにくくなる。この方法だと藤田氏の夢である減災の恩恵をかなり早く普及できるのではないかと考えている。
検討委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)。
藤田氏は、堤防の植生に一定の耐侵食機能があることに着目して、国総研時代に植生とジオテキスタイルを組み合わせた「侵食防止シート」を開発し特許を取得している。
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