2023年4月11日火曜日

越水対策の行方  国交省が技術募集を開始

 国土交通省は、「粘り強い河川堤防の技術」の開発のために、一般財団法人国土技術開発センターを窓口にして、令和5年3月10日から越水対策技術を公募することとした。

 公募に先立ち、募集要項に対する意見を募集したところ、5つの業界団体と6つの民間企業、1つの大学、3人の一般人の合計15者から寄せられた。
 その意見の中で特に目を引くのが、高さ2m以上の堤防を築造して30cmの水深で越流させて実験することに対し、実験施設の整備が難しいので再考を求めるというものだった。  国内の大学では、高さ2m以上の堤防を築造できるほどの水理実験場は皆無らしい。

 堤防の越水対策を熱心に研究している大学は、埼玉大学や東京理科大学などいくつかあるが、このままでは、大学から越水対策の技術提案ができなくなる可能性がある。

 提案された越水対策技術は、国交省や検討会が評価を行い、それらをまとめた評価リストを作成する予定だ。この評価リストを参考に国交省や県などが、越水対策工事を発注するという流れのようだ。
 越水対策をどこで整備するかは、今後、検討会で議論し対象が示されることになっている。

 河川の堤防は何のために築造されたか。答えは簡単だ。洪水が溢れないようにするためだ。だから、洪水が溢れては困るところに堤防が整備されている。越水破堤は堤防のあるところで発生する。堤防のないところでは越水破堤は発生するはずがない。したがって、越水対策はすべての堤防で実施されるべきなのかもしれない。

   国交省は2016年から五か年計画で、越水に対し粘り強くさせようとして、全国の約630㎞の川裏の法尻を連結ブロックで補強した。
 しかし、その補強された約630㎞の区間で実際に越水が発生したのは、都幾川の100mぐらいだけであり、越水の発生個所を高確率で予想することはかなり難しいようだ。けっきょく、河川管理者は越水対策はすべての堤防を越水のために補強しないと安心できなくなるはずだ。

 しかし、すべての堤防を粘り強くさせるには、膨大な予算が必要だ。
 仮に川裏をすべてブロックを敷き覆土する場合、当然ながら川表も同様にしなければならなくなる。こうなると1mあたり100万円は軽く超えてしまう。現状の国交省の予算規模では完成まで数十年かかるだろう。けれど、越水による破堤は年ごとに増加を続けているのだから、数十年も待ってはいられない。

 繰り返しになるが、検討委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)の、「日経コンストラクション」の2017年6月12日号のインタビューで述べた言葉だ。

 藤田氏宣う、「法面への植生も意外に効く。条件がよければ、流速5~6m/秒でも10時間は持つ。簡素な構造だから、施工にそれほど費用がかからない。さらに対策距離を結構稼げる。減災の恩恵を早く普及させるために重要な視点だ」
 まさに慧眼といえる。植生だとコンクリートで覆うよりも数十分の一の費用で済む。

   しかし、植生のみでは洪水に流されやすい。そうであれば、ジオテキスタイルなどで植生の根と絡ませれば、簡単には流されない。藤田氏は国総研時代に植生とジオテキスタイルを組み合わせた「侵食防止シート」を開発し特許を取得している。ジオテキスタイルの中に砂を注入して、そのあとに種子吹付をする方法で、なかなか手間がかかる。

 そこまでごつくする必要はないが、ジオネットの上に野芝を張るだけでも水流に流されにくくなる。この方法だと藤田氏の夢である減災の恩恵をかなり早く普及できるのではないかと考えている。

 
        検討委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)。
藤田氏は、堤防の植生に一定の耐侵食機能があることに着目して、国総研時代に植生とジオテキスタイルを組み合わせた「侵食防止シート」を開発し特許を取得している。  

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