予防保全
最近この言葉を聞くことが少なくなったような気がする。問題が発生してから、その解決に奔走するのが事後保全。
予防保全とかライフサイクルコストという言葉が、業界紙を賑わしたのは今から20年ほどの昔しになった。
その後10年ほど経ってから道路インフラの点検が義務化になり、橋梁やトンネルなどは5年ごとに点検し、健全度評価をすることになっている。計画的に修繕をつづければ耐用年数が大幅に伸びるので、この政策は予防保全やライフサイクルコストの低減が基本になっている。
橋梁の床版にはコンクリートの劣化を遅らせるために、防水シートを張ったり防水塗装が施されている。今から30年ほど以前から実施されていて、これは予防保全のはしりといっていい。
鉄筋の表面をエポキシ樹脂で塗装し、塩分により腐食しにくいようにするのも予防保全だ。100年橋梁もだ。
このように、道路インフラでは予防保全が多く実践されている。その一方で、河川のインフラではどうだろうか。
イタドリが繁茂して堤防の裸地化が目だち、洪水になったら危険なので堤防法面を50cm以上掘り返し、段切して芝を張り替える。これは事後保全。除草剤の散布や注入も事後保全だ。
堤防にモグラが棲みついて穴だらけになり、洪水になったら堤防決壊の原因になりかねないと慌てて掘り返して補強するのも事後保全。ライフサイクルコストの面で、堤防構造は昔からほとんど進化していないような気がする。
しかし、今、河川でも予防保全が動きだしている。
越水が発生しても粘り強い堤防にしようと国交省が検討会を発足させた。
令和2年2月に、日本の河川堤防技術のトップである国土交通省の治水課が事務局となり、河川堤防の権威である大学の教授や元国総研の所長などが招集された。検討会は2年かけて越水に対して粘り強い堤防構造を模索したが、具体的な技術を確立することができず、令和4年5月に同じメンバーで、「河川堤防の強化に関する技術検討会」を立ち上げ、民間や大学等から技術提案を募ることになった。
堤防構造の国内トップの権威者たちが集まって知恵を出し合い、喧々諤々の議論を重ねても具体的な技術にたどり着けなかった越水対策は、民間と大学の研究者に委ねられたことになった。それほど越水対策は難問なのである。しかし、それでも予防保全の実践という意味では大きな前進だ。
ジオネット(高密度ポリエチレン製のネット)で、堤防のイタドリやブタクサ、セイヨウカラシナ、セイタカアワダチソウ、ススキ、ヨモギ、セイバンモロコシ、アレチウリ、モグラ、キツネ、イノシシ、越水対策に取り組んでから8年が過ぎた。これらは予防保全だ。思えば長いようで、そして短いようでもあった。しかし、この予防保全の技術の知名度はまだまだ低い。ジオネットの存在を知らない技術者は多い。
ジオネットによる技術は、イタドリや西洋カラシナ(菜の花)、ブタクサ、セイタカアワダチソウなどの強害雑草の防止だけでなく、ガリ侵食防止、モグラやキツネ、イノシシなどの生息防止など、一石五鳥にもなる。
そして、コンクリートブロックのように景観を阻害することもない。覆土もいらないのでコストは極めて安い。
さらに、越水に強いことが証明できれば、強力な予防保全技術の確立が実現することになるが、検討会への応募条件は、高さ2mの堤防が築造し越水に強いことを水理実験で証明しなければならない。これには膨大な費用がかかるので個人では不可能だ。
夢の予防保全技術への道はなかなか遠い。
イタドリ防止のためのジオネットの張り付け作業の見学会。予防保全の取り組みが始まろうとしている。
0 件のコメント:
コメントを投稿