国土交通省の北上川下流河川事務所が管理する江合川で、雑草抑制ネット(タキロンシーアイシビル社製 高密度ポリエチレン製の1mmメッシュのネット)によるイタドリの抑制実験を開始したのが2023年1月。それから2年6か月経過した。
2025年7月4日の午後、現地に到着して効果状況を観察した。
下の写真のAとBのエリアは雑草抑制ネットを敷いているが、Cのエリアはネットを使用しないで堤防を50㎝掘って土を入れ替えて野芝を張った従来工法である。
堤防は6月17日にラジコン除草機械で除草済みだったが、Cのエリアでは、新しいイタドリの芽が30㎝程度に伸びていた。もう2~3年もすれば、元のイタドリのジャングルに戻ってしまいそうである。1m2あたり1万円もかけて芝の張替えをしても、5年ほどで元の木阿弥なのである。
一方で、雑草抑制ネットを敷いたAとBのエリアでは、5~10㎝程度の小さなイタドリがポツリポツリと生えているだけである。昨年よりも数は減ったようであり、草丈も短くなっている。地中にイタドリの地下茎がまだ残っているらしく、細々と生き続けているようだ。
この程度だと堤防の点検作業には支障が無いし、植生維持上でも実害はない。イタドリの恒久対策と位置づけていいだろう。
ネットの上をラジコン除草機械が通ったら、機械が滑って転落するのではないかと心配する諸兄がいたが、野芝が剥げ落ちたり、ネットが露出していないので、この心配は無用だった。
Aのエリアは表土を10㎝入替え法面整形して雑草抑制ネットを敷き、その上に直に野芝を張るのでコストは1m2あたり6~7千円で済む。100年あたりのLCCで比較すると、雑草抑制ネット工法は従来工法の9分の1と極めて経済的である。
さらに、セイタカアワダチソウやヨモギ、ススキなどの繁茂も防止できるし、モグラの営巣も防止できる優れモノなのである。
雑草抑制ネットを使用していないCのエリアには、30㎝程のイタドリの芽が20本近く生えだしていた。
Cのエリアに生えだしたイタドリ。あと2~3年もすれば元のイタドリのジャングルに戻ってしまいそうである。
Cのエリアに生えだしたイタドリ。除草して17日目でもうこれ程大きくなっている。
Aのエリアに生えたイタドリ。草丈は5㎝ぐらい。この程度だと堤防の管理上ではまったく問題がないといえる。
この実験で使用した雑草抑制ネット。土の中にあるので直射日光が当たらないので劣化しにくい。
嶋津技術士残日録
国交省に40年間在職し、堤防の厄介モノであるイタドリやセイタカアワダチソウを、ジオネットと呼ばれる樹脂製の網で、恒久的に成長を抑制するコスト削減手法を開発。ジオネットはモグラやキツネの防止、越水による侵食の防止効果もあり、堤防の強靭化に貢献できます。 また、従来の5分の1程度のコストや電力量で融雪効果が発揮できる、超省エネ型ロードヒーティング(別名ライン型ロードヒーティング)も開発。この二つの技術をメインに、技術士としての残り少ない日々の想いを綴って技術伝承し、少しでも社会に貢献できればと願っています。 (連絡先 atk.shimazu@gmail.com)
2025年7月9日水曜日
2025年6月11日水曜日
堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(9) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)
家の近くを広瀬川の清流が流れている。
ここは河口からおよそ30㎞ほどさかのぼった広瀬川の中流である。
5月になると藤の花が見事に咲き乱れる。川の流れの音に混じってカエルや様々な小鳥たちのさえずりも聞こえる。ここはカエルや小鳥たちの楽園だ。
舗装していない土と草の野道を歩くのはとても気持ちがいい。周辺の住人達もこの径を散歩しているようだ。径は20㎝ほどの幅で踏み固められていてぬかるみはなく、気持ちよく歩くことができる。
しかし、イタドリはこんなところにも容赦なく繁茂する。中には丈が3mを超すものもある。
イタドリは除草しても次から次と繁茂を続ける。2週間も除草しないと人が歩けなくなる。下の写真はイタドリで覆いつくされた散歩道だ。
数年前から下の写真のように毎週、鎌で堤防の草刈りをしている。草刈り幅は1.5mと狭いが、散歩するには十分な幅だ。それに草刈り後の青草の生気に満ちた匂いが気に入っている。草刈りの匂いは子供のころの運動会のグランドの匂いである。
しかし、草刈りを2週間ほどさぼると、またもとのジャングルに戻ってしまう。
堤防などに様々な雑草が生える中で、イタドリやセイタカアワダチソウほど、成長が早く大きくなる草はない。つまり、イタドリやセイタカアワダチソウをコントロールできれば、除草作業は大幅に軽減できることになる。
そんな思いから、3年前、わずか1.5m四方の規模ではあるが、タキロンシーアイシビル社製の雑草抑制ネットを敷設した。
そのネットの上にホームセンターから買ってきた、半分枯れかけた高麗芝を張ったが全滅して枯れてしまったものの、イタドリの萌芽はまったくなくなった。
景観上の違和感もない。
国土交通省の北海道開発局では、こうした取り組みが年に数万m2規模で実践されているとのことである。北海道のイタドリは本州のものよりも太く、草丈が高い。さらに至る所に繁茂している。
黒いネットシートがタキロンシーアイシビル社製の雑草抑制ネット。継目から雑草が萌芽できないようになっている。
ピンクのリボンのある位置がタキロンシーアイシビル社製の雑草抑制ネットを敷設した場所。イタドリの繁茂は完璧に制御できている。ネットは露出していないので違和感もない。 ネットシートの端部を折り返し加工してあるので、ネットシートの隙間からイタドリが萌芽することはできなくなっている。(特許製品) 旭川開発建設部では、雑草抑制ネットを活用して大規模な堤防法面補修工事を行っている。この結果、イタドリだけでなくセイタカアワダチソウの防止にも効果が発揮されている。また、モグラの巣穴もなくなったとのことである。さらに、越水に対しても相当な耐侵食性を発揮できる可能性がある。
ここは河口からおよそ30㎞ほどさかのぼった広瀬川の中流である。
5月になると藤の花が見事に咲き乱れる。川の流れの音に混じってカエルや様々な小鳥たちのさえずりも聞こえる。ここはカエルや小鳥たちの楽園だ。
舗装していない土と草の野道を歩くのはとても気持ちがいい。周辺の住人達もこの径を散歩しているようだ。径は20㎝ほどの幅で踏み固められていてぬかるみはなく、気持ちよく歩くことができる。
しかし、イタドリはこんなところにも容赦なく繁茂する。中には丈が3mを超すものもある。
イタドリは除草しても次から次と繁茂を続ける。2週間も除草しないと人が歩けなくなる。下の写真はイタドリで覆いつくされた散歩道だ。
数年前から下の写真のように毎週、鎌で堤防の草刈りをしている。草刈り幅は1.5mと狭いが、散歩するには十分な幅だ。それに草刈り後の青草の生気に満ちた匂いが気に入っている。草刈りの匂いは子供のころの運動会のグランドの匂いである。
しかし、草刈りを2週間ほどさぼると、またもとのジャングルに戻ってしまう。
堤防などに様々な雑草が生える中で、イタドリやセイタカアワダチソウほど、成長が早く大きくなる草はない。つまり、イタドリやセイタカアワダチソウをコントロールできれば、除草作業は大幅に軽減できることになる。
そんな思いから、3年前、わずか1.5m四方の規模ではあるが、タキロンシーアイシビル社製の雑草抑制ネットを敷設した。
そのネットの上にホームセンターから買ってきた、半分枯れかけた高麗芝を張ったが全滅して枯れてしまったものの、イタドリの萌芽はまったくなくなった。
景観上の違和感もない。
国土交通省の北海道開発局では、こうした取り組みが年に数万m2規模で実践されているとのことである。北海道のイタドリは本州のものよりも太く、草丈が高い。さらに至る所に繁茂している。
黒いネットシートがタキロンシーアイシビル社製の雑草抑制ネット。継目から雑草が萌芽できないようになっている。
ピンクのリボンのある位置がタキロンシーアイシビル社製の雑草抑制ネットを敷設した場所。イタドリの繁茂は完璧に制御できている。ネットは露出していないので違和感もない。 ネットシートの端部を折り返し加工してあるので、ネットシートの隙間からイタドリが萌芽することはできなくなっている。(特許製品) 旭川開発建設部では、雑草抑制ネットを活用して大規模な堤防法面補修工事を行っている。この結果、イタドリだけでなくセイタカアワダチソウの防止にも効果が発揮されている。また、モグラの巣穴もなくなったとのことである。さらに、越水に対しても相当な耐侵食性を発揮できる可能性がある。
2024年11月18日月曜日
粘り強い河川堤防か、堤防嵩上げか
国土交通省は令和6年11月7日、「粘り強い河川堤防」の応募技術として、越水に対する性能等が一定程度確認された4技術の技術比較表を公表した。
昨年の3月から公募を開始し、半年ほどかけて評価検証して、本来であれば昨年度末に技術比較表を公表する予定だったらしいが、作業が難航したらしく、スケジュールは7か月ほど遅れてしまった。
公募条件は、越流水深が30㎝の場合でも3時間耐えられることである。
しかし、目標の越流水深30㎝に対して堤防を50㎝嵩上げすれば越水は防げるし、応募されたどの技術よりも堤防嵩上げが経済的であることが判明した。
粘り強い河川堤防か、堤防嵩上げか。どちらを選択するかは、浸水被害に悩む流域住民の判断や意見が必要である。
堤防を50㎝嵩上げした場合のコストは10万円/1m(直工)になった。さらに100㎝の嵩上げだと15万円/1m(直工)で済みそうである。
今回公表された各応募工法の単価は以下のとおりであり、堤防嵩上げの方が圧倒的に経済的であることが分かる。
堤防を100㎝も嵩上げすれば、越水する確率は大幅に低減し、国民の大切な血税を無駄に投入する必要もなくなる。
粘り強い堤防か、堤防嵩上げか。今後、使い分けの議論が国交省内で始まるものと思われるが、大切なことは流域住民との合意が重要になるということである。
①、カゴ枠法面工 32.9万円/1m
②、改良型被覆ブロック等を用いた表面被覆型の堤防強化技術 33.8万円/1m
③、透気防水シート「ブリーザブルシート」 17.7万円/1m
④、越流対策型 布製型枠工法 28.7万円/1m
国土交通省の治水課が発表した技術比較表の詳細は下記による。
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/teibou_kyouka/index.html
なお、今後は4技術の技術比較表に基づき、国交省の出先機関の各地方整備局がパイロット工事や試験施工を行う場合の参考資料として取り扱われ、完成後は効果検証される予定となっている。
しかし、試験施工箇所で越水が発生する可能性は天気しだいであり、効果検証がいつできるかは予測不可能だ。
①、カゴ枠法面工 堤防嵩上げの約3倍の32.9万円/1m カゴのままで景観上で問題がないだろうか?
②、改良型被覆ブロック等を用いた表面被覆型の堤防強化技術 堤防嵩上げの約3倍の33.8万円/1m 覆土の厚さが一律30㎝だが、千曲川のように覆土が滑落しないか不安である。
③、透気防水シート「ブリーザブルシート」 堤防嵩上げの約2倍の17.7万円/1m 覆土の厚さが一律30㎝だが、シートは表面水は浸透できないのでシートがすべり面になって覆土が滑り落ちるのではないかとの懸念がある。それに施工中にシートを傷つけてしまう可能性もある。
④、越流対策型 布製型枠工法 堤防嵩上げの約3倍の28.7万円/1m 覆土の厚さが一律30㎝だが、千曲川のように覆土が滑落するのではないかと不安である。 千曲川の覆土の崩落状況。覆土の下にはコンクリートブロックがある。覆土の崩落は数か所で発生し、北陸地方整備局は検討会を設けて対策をすることとなった。検討会の資料は次のとおり。
https://www.hrr.mlit.go.jp/river/chikumafukudochousa/01_(1)240625_siryou,all.pdf 北陸地方整備局の検討会が再発防止策として打ち出した、覆土を緩勾配にする案だがコストが膨大になる。最初から堤防嵩上げしていれば、裏法面のブロックでの補強が不要になり、覆土が崩れることもなかったと思われる。粘り強い堤防に固執するとコストアップがついてくることになるので、嵩上げとの比較検討が必要である。
昨年の3月から公募を開始し、半年ほどかけて評価検証して、本来であれば昨年度末に技術比較表を公表する予定だったらしいが、作業が難航したらしく、スケジュールは7か月ほど遅れてしまった。
公募条件は、越流水深が30㎝の場合でも3時間耐えられることである。
しかし、目標の越流水深30㎝に対して堤防を50㎝嵩上げすれば越水は防げるし、応募されたどの技術よりも堤防嵩上げが経済的であることが判明した。
粘り強い河川堤防か、堤防嵩上げか。どちらを選択するかは、浸水被害に悩む流域住民の判断や意見が必要である。
堤防を50㎝嵩上げした場合のコストは10万円/1m(直工)になった。さらに100㎝の嵩上げだと15万円/1m(直工)で済みそうである。
今回公表された各応募工法の単価は以下のとおりであり、堤防嵩上げの方が圧倒的に経済的であることが分かる。
堤防を100㎝も嵩上げすれば、越水する確率は大幅に低減し、国民の大切な血税を無駄に投入する必要もなくなる。
粘り強い堤防か、堤防嵩上げか。今後、使い分けの議論が国交省内で始まるものと思われるが、大切なことは流域住民との合意が重要になるということである。
①、カゴ枠法面工 32.9万円/1m
②、改良型被覆ブロック等を用いた表面被覆型の堤防強化技術 33.8万円/1m
③、透気防水シート「ブリーザブルシート」 17.7万円/1m
④、越流対策型 布製型枠工法 28.7万円/1m
国土交通省の治水課が発表した技術比較表の詳細は下記による。
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/teibou_kyouka/index.html
なお、今後は4技術の技術比較表に基づき、国交省の出先機関の各地方整備局がパイロット工事や試験施工を行う場合の参考資料として取り扱われ、完成後は効果検証される予定となっている。
しかし、試験施工箇所で越水が発生する可能性は天気しだいであり、効果検証がいつできるかは予測不可能だ。
①、カゴ枠法面工 堤防嵩上げの約3倍の32.9万円/1m カゴのままで景観上で問題がないだろうか?
②、改良型被覆ブロック等を用いた表面被覆型の堤防強化技術 堤防嵩上げの約3倍の33.8万円/1m 覆土の厚さが一律30㎝だが、千曲川のように覆土が滑落しないか不安である。
③、透気防水シート「ブリーザブルシート」 堤防嵩上げの約2倍の17.7万円/1m 覆土の厚さが一律30㎝だが、シートは表面水は浸透できないのでシートがすべり面になって覆土が滑り落ちるのではないかとの懸念がある。それに施工中にシートを傷つけてしまう可能性もある。
④、越流対策型 布製型枠工法 堤防嵩上げの約3倍の28.7万円/1m 覆土の厚さが一律30㎝だが、千曲川のように覆土が滑落するのではないかと不安である。 千曲川の覆土の崩落状況。覆土の下にはコンクリートブロックがある。覆土の崩落は数か所で発生し、北陸地方整備局は検討会を設けて対策をすることとなった。検討会の資料は次のとおり。
https://www.hrr.mlit.go.jp/river/chikumafukudochousa/01_(1)240625_siryou,all.pdf 北陸地方整備局の検討会が再発防止策として打ち出した、覆土を緩勾配にする案だがコストが膨大になる。最初から堤防嵩上げしていれば、裏法面のブロックでの補強が不要になり、覆土が崩れることもなかったと思われる。粘り強い堤防に固執するとコストアップがついてくることになるので、嵩上げとの比較検討が必要である。
2024年10月16日水曜日
粘り強い河川堤防よりも、堤防嵩上げが経済的
令和元年の台風第19号で越水破堤が多発したことから、国土交通省の治水課は大学教授や土研の所長などによる検討会を設け、粘り強い河川堤防の検討を開始してからすでに4年経った。
しかし、検討会からは粘り強い河川堤防の具体的な構造を生み出すことができなく、やむなく大学や企業から技術案を公募するという顛末となった。 公募は、越流水深が30㎝で3時間耐えられることが条件となった。
応募された16件の技術のうち4件だけが一定の評価がつけられ、パイロット工事や試験施工の対象として今後取り扱われることになった。しかし、どの工法も覆土が必要なので、相当の費用がかかりそうなのが課題といえる。
そこで思うのは、粘り強い河川堤防をめざすよりは、堤防の高さを嵩上げした方が合理的になるケースもあるかなということである。
国交省の募集要項に示された堤防の天端幅5m、堤防高さ5m、のり勾配2割の条件で、堤防を50㎝嵩上げしたときの費用を試算してみた。公募条件の越流水深は30㎝だが、これに20㎝の余裕を持たせて嵩上げ高を50㎝としてみた。
試算では腹付け盛土や法面工、舗装復旧を含めても10万円/1m(直工)程度で済みそうだ。
一方、千曲川など台風第19号の復旧工事で施工された、堤防裏法面をブロックで固めた構造だと、25万円/1m(直工)を軽く越してしまう。この25万円/1mがあったら、堤防は1m近く嵩上げできる計算になる。堤防を1m嵩上すると越水の可能性は大幅に軽減するし、越水しなければ浸水被害も発生しないことになる。
越流水深30㎝の条件だと、粘り強い河川堤防をめざすよりは、堤防を50㎝嵩上げして越水させない方が安全で経済的だ。
言い換えれば、今、国が検討している粘り強い河川堤防の構造は、堤防嵩上げとの経済比較が必要だということになる。もちろん、嵩上げして既存の橋梁や道路、宅地へ影響がないことが前提である。
粘り強い河川堤防の整備は、堤防の嵩上げが物理的に不可能な箇所に限定して整備すべきとの声があがりそうである。
大切なことは、流域住民がどちらを望むかである。
越流の可能性が軽減されて浸水のリスクの低い堤防の嵩上げがいいのか、家が浸水しても粘り強い堤防を望むのかの意向確認が必要であろう。
国総研のイメージする「粘り強い河川堤防」。しかし、越水したら家が浸水してしまう。「粘り強い河川堤防」に多額の予算を費やすよりは、コストが安くて浸水の可能性が低い嵩上げの方が、安心だと思う流域住民もかなり多いと思うのだが。
しかし、検討会からは粘り強い河川堤防の具体的な構造を生み出すことができなく、やむなく大学や企業から技術案を公募するという顛末となった。 公募は、越流水深が30㎝で3時間耐えられることが条件となった。
応募された16件の技術のうち4件だけが一定の評価がつけられ、パイロット工事や試験施工の対象として今後取り扱われることになった。しかし、どの工法も覆土が必要なので、相当の費用がかかりそうなのが課題といえる。
そこで思うのは、粘り強い河川堤防をめざすよりは、堤防の高さを嵩上げした方が合理的になるケースもあるかなということである。
国交省の募集要項に示された堤防の天端幅5m、堤防高さ5m、のり勾配2割の条件で、堤防を50㎝嵩上げしたときの費用を試算してみた。公募条件の越流水深は30㎝だが、これに20㎝の余裕を持たせて嵩上げ高を50㎝としてみた。
試算では腹付け盛土や法面工、舗装復旧を含めても10万円/1m(直工)程度で済みそうだ。
一方、千曲川など台風第19号の復旧工事で施工された、堤防裏法面をブロックで固めた構造だと、25万円/1m(直工)を軽く越してしまう。この25万円/1mがあったら、堤防は1m近く嵩上げできる計算になる。堤防を1m嵩上すると越水の可能性は大幅に軽減するし、越水しなければ浸水被害も発生しないことになる。
越流水深30㎝の条件だと、粘り強い河川堤防をめざすよりは、堤防を50㎝嵩上げして越水させない方が安全で経済的だ。
言い換えれば、今、国が検討している粘り強い河川堤防の構造は、堤防嵩上げとの経済比較が必要だということになる。もちろん、嵩上げして既存の橋梁や道路、宅地へ影響がないことが前提である。
粘り強い河川堤防の整備は、堤防の嵩上げが物理的に不可能な箇所に限定して整備すべきとの声があがりそうである。
大切なことは、流域住民がどちらを望むかである。
越流の可能性が軽減されて浸水のリスクの低い堤防の嵩上げがいいのか、家が浸水しても粘り強い堤防を望むのかの意向確認が必要であろう。
国総研のイメージする「粘り強い河川堤防」。しかし、越水したら家が浸水してしまう。「粘り強い河川堤防」に多額の予算を費やすよりは、コストが安くて浸水の可能性が低い嵩上げの方が、安心だと思う流域住民もかなり多いと思うのだが。
2024年7月18日木曜日
越水対策の行方 ~応募技術の評価が公表される~
令和6年6月19日、国土技術研究センターが民間企業や大学などを対象にして公募した、粘り強い河川堤防の技術に対する評価が、同センターのホームページで公表された。
これは、国交省の「河川堤防の強化に関する技術検討会(座長 山田正 中央大学教授)」から、第三者機関として指定された国土技術研究センターが、民間や大学などから応募された技術に対して行われた評価結果である。
応募件数は全部で16件だったが、今回は評価階層のC以上の5件だけの公表となり、ほかは選外となっている。
評価階層はAからDまであり、例えばDの場合は提案技術の性能に課題があると評され、粘り強い堤防の機能が無いと判断される領域のもので、今回は公表対象から外されている。
評価Aは性能に問題がなく改善の余地もないパーフェクトのものをさすが、今回は該当はなかった。
工法の種類では被覆型が4件、自立型が1件となっていて、今後、評価された個々の技術の特徴を明らかにした「技術比較表」を整理し、国交省などが公表することになっている。そして、この「技術比較表」に基づいて地方整備局が、パイロット施工や小規模試験施工を実施することになっている。
「技術比較表」にはコストや施工性などの指標が示されるものと思われる。
現時点での私が抱く懸念や感想は以下のとおりである。
被覆型の4工法に共通しているのは、どれも覆土が必要なことである。堤防の裏法面がカゴ枠やブロック、シートのままでは、地域の景観を破壊してしまうから、どうしても覆土が必要になってしまうし、覆土しないと直射日光でシートは劣化してしまう。(覆土が不要な工法は、私が提唱するジオネット+緑化ぐらいである)
カゴ枠の上に覆土する場合、土砂がカゴ枠の中に吸い込まれないように吸出し防止材を敷く必要がある。階段状になったカゴ枠の上の覆土は、かなりの土量が必要となるので、コストアップが心配だ。
被覆ブロックの上に覆土する場合は、覆土が崩落しないように工夫が必要だ。千曲川の災害復旧工事では、ブロック上の覆土が何度も滑落したとの報道があったからである。
透気防水シートに覆土する場合は、シートがすべり面になって覆土が崩壊するのではないかとの懸念もある。また、このシートは排気はできても排水ができないので、堤防の下面からの浸透してくる河川水をどうやって排水するのかが課題になりそうである。
布製型枠工法は文字どおりに、現地で布製の型枠の中に生コンクリートを流し込んでコンクリート護岸を築造する工法である。この方法も覆土が必要になるので、覆土が滑落しないような対策が必要である。
さらに大きな懸念は、覆土してしまうとカゴ枠やシート、ブロックの異常や変状を確認することが難しくなってしまうということである。カゴ枠はメッキ仕上げの鉄線なのでいつかは錆びて破断してしまうかもしれない。コンクリートはクラックが発生するし、シートは施工中に重機で破損しているかもしれない。破断やクラックなど覆土で見えなくなるもの(不可視部分)をどうやって点検し補修していくかである。
不可視部分の日常点検は、令和2年2月の委員会発足当時の開発目標のひとつとしてあげられていたテーマでもある。覆土して見えなくなった対策施設の点検や補修をどのようにすべきなのかが課題になりそうである。
また、この粘り強い堤防の整備対象をどこにするかも大きな課題である。数年前、危機管理型ハード対策と称して、全国的規模で堤防の裏法面の堤脚部をブロック張で補強したが、当然ながらこの区間が整備対象の最優先箇所となるはずである。
しかし、施工済みの堤脚部の張ブロックと、新たに開発された粘り強い堤防の構造が異なるので、せっかく整備した堤脚部の張ブロックが使えなくなる可能性も出てくる。これにどう対処するのかも問われることになる。
まずは、国土交通省などが間もなく公表する予定の「技術比較表」を見てから、今後の方向を予想したいと思うが、現時点で施工性の面でブロック張が有利だと考えられる。既存の危機管理型ハード対策で設置した張ブロックを再利用できる余地もあるからだ。
しかし、越水対策はなかなか進まない。「技術比較表」もいつ公表されるのかまったく分からない状態だ。
事務局内でいろいろ揉めているのだろうが、今年も間もなく洪水の季節がやってくる。
越水破堤は毎年どこかで発生しているのだから、座して死を待っていてはいけない。
一刻でも早く低コストの粘り強い堤防を整備し、流域住民の安全・安心を確保することが流域治水の基本だ。
うかうかしていると、越水破堤は簡単に発生してしまう。
6月19日に国土技術研究センターが発表した公募された技術の評価結果。応募技術は16件あって、C評価以上のものを公表対象としている。 昨年、国土技術研究センターが応募要領で示した評価階層の分類表。
これは、国交省の「河川堤防の強化に関する技術検討会(座長 山田正 中央大学教授)」から、第三者機関として指定された国土技術研究センターが、民間や大学などから応募された技術に対して行われた評価結果である。
応募件数は全部で16件だったが、今回は評価階層のC以上の5件だけの公表となり、ほかは選外となっている。
評価階層はAからDまであり、例えばDの場合は提案技術の性能に課題があると評され、粘り強い堤防の機能が無いと判断される領域のもので、今回は公表対象から外されている。
評価Aは性能に問題がなく改善の余地もないパーフェクトのものをさすが、今回は該当はなかった。
工法の種類では被覆型が4件、自立型が1件となっていて、今後、評価された個々の技術の特徴を明らかにした「技術比較表」を整理し、国交省などが公表することになっている。そして、この「技術比較表」に基づいて地方整備局が、パイロット施工や小規模試験施工を実施することになっている。
「技術比較表」にはコストや施工性などの指標が示されるものと思われる。
現時点での私が抱く懸念や感想は以下のとおりである。
被覆型の4工法に共通しているのは、どれも覆土が必要なことである。堤防の裏法面がカゴ枠やブロック、シートのままでは、地域の景観を破壊してしまうから、どうしても覆土が必要になってしまうし、覆土しないと直射日光でシートは劣化してしまう。(覆土が不要な工法は、私が提唱するジオネット+緑化ぐらいである)
カゴ枠の上に覆土する場合、土砂がカゴ枠の中に吸い込まれないように吸出し防止材を敷く必要がある。階段状になったカゴ枠の上の覆土は、かなりの土量が必要となるので、コストアップが心配だ。
被覆ブロックの上に覆土する場合は、覆土が崩落しないように工夫が必要だ。千曲川の災害復旧工事では、ブロック上の覆土が何度も滑落したとの報道があったからである。
透気防水シートに覆土する場合は、シートがすべり面になって覆土が崩壊するのではないかとの懸念もある。また、このシートは排気はできても排水ができないので、堤防の下面からの浸透してくる河川水をどうやって排水するのかが課題になりそうである。
布製型枠工法は文字どおりに、現地で布製の型枠の中に生コンクリートを流し込んでコンクリート護岸を築造する工法である。この方法も覆土が必要になるので、覆土が滑落しないような対策が必要である。
さらに大きな懸念は、覆土してしまうとカゴ枠やシート、ブロックの異常や変状を確認することが難しくなってしまうということである。カゴ枠はメッキ仕上げの鉄線なのでいつかは錆びて破断してしまうかもしれない。コンクリートはクラックが発生するし、シートは施工中に重機で破損しているかもしれない。破断やクラックなど覆土で見えなくなるもの(不可視部分)をどうやって点検し補修していくかである。
不可視部分の日常点検は、令和2年2月の委員会発足当時の開発目標のひとつとしてあげられていたテーマでもある。覆土して見えなくなった対策施設の点検や補修をどのようにすべきなのかが課題になりそうである。
また、この粘り強い堤防の整備対象をどこにするかも大きな課題である。数年前、危機管理型ハード対策と称して、全国的規模で堤防の裏法面の堤脚部をブロック張で補強したが、当然ながらこの区間が整備対象の最優先箇所となるはずである。
しかし、施工済みの堤脚部の張ブロックと、新たに開発された粘り強い堤防の構造が異なるので、せっかく整備した堤脚部の張ブロックが使えなくなる可能性も出てくる。これにどう対処するのかも問われることになる。
まずは、国土交通省などが間もなく公表する予定の「技術比較表」を見てから、今後の方向を予想したいと思うが、現時点で施工性の面でブロック張が有利だと考えられる。既存の危機管理型ハード対策で設置した張ブロックを再利用できる余地もあるからだ。
しかし、越水対策はなかなか進まない。「技術比較表」もいつ公表されるのかまったく分からない状態だ。
事務局内でいろいろ揉めているのだろうが、今年も間もなく洪水の季節がやってくる。
越水破堤は毎年どこかで発生しているのだから、座して死を待っていてはいけない。
一刻でも早く低コストの粘り強い堤防を整備し、流域住民の安全・安心を確保することが流域治水の基本だ。
うかうかしていると、越水破堤は簡単に発生してしまう。
6月19日に国土技術研究センターが発表した公募された技術の評価結果。応募技術は16件あって、C評価以上のものを公表対象としている。 昨年、国土技術研究センターが応募要領で示した評価階層の分類表。
2024年7月1日月曜日
堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(8) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)
イタドリは、維管束と呼ばれる養分を送り込む管(くだ)を経由して、夏の間に葉っぱで合成されたデンプンなどの養分を「貯蔵根」や地下茎に送って貯め込んでおき、翌春の発芽に備える。
春になり発芽のときには再び維管束を経由して、「貯蔵根」や地下茎から必要な養分を新芽に送り返す。
維管束は人間に例えると、母親と胎内の赤ちゃんを結ぶ臍の緒のようなものである。(下の写真の黄色い糸のようなものが維管束)
私が考えたジオネットによるイタドリの成長抑制手法は、イタドリの臍の緒を1mmメッシュのジオネットで狭めて、養分の出し入れをできないようにし、やがて衰退させるというものである。これによりイタドリは恒久的に防止できるし、イタドリ以外の強害植物であるセイタカアワダチソウやブタクサの繁茂も同様に成長抑制ができるのである。
さらに、モグラの棲息も阻止できるので、モグラを餌ににするキツネなども巣を造ることはできなくなるというメリットもある。
そして、ジオネットと雑草の根毛が絡みつくので、仮に堤防越水が発生しても芝などが流されにくくなり相当の耐侵食性が発揮できるので、安価な費用で越水対策が可能である。
この方法を発案したのは10年程前である。
当初はジオネットの網目を市場に出回っている最小規格の2.5mmで実験したが、この目合いでは養分の出し入れを止められずイタドリは衰退しなかった。翌年、メーカーに頼んで網目を1.5mmに狭くしたが、変化はほとんどなかった。
次の年は1.2mmにしたものの効果は不十分で、4年目に1.0mmにすると、ようやくイタドリが衰退をはじめた。1mmの目合いだと、野芝の根が通過できるので生育には支障ないが、イタドリの成長はくい止めることができる。これを見極めるのに4年かかったが、ジオネットのメーカーであるタキロンシーアイシビル株式会社の協力があったからこそ開発できたことであり、深く感謝している。
4年間で分かったことは次のとおりである。
ジオネットを施工した1年目は、地下茎に養分が残っていたのでかなりの密度でイタドリが萌芽し、草丈も20~30cmに伸びたが、2年目は萌芽本数が激減し草丈も10㎝程度で成長が止まってしまった。これは、前年に葉っぱから地下茎に養分を届けられず、地下茎の残り少ない養分で発芽しようとあがいた結果だと想像できる。
3年目になると萌芽本数はさらに減ってほぼ根絶状態になった。原因は二つ考えられる。一つは地下茎の養分が枯渇した可能性があること。もう一つは、ジオネットの網目が野芝の根毛で閉塞してしまったことである。網目が塞がるとイタドリだけでなく、他の植物も萌芽は難しくなるからである。
2024年6月29日(土)の早朝5時に、国交省が管理する江合川(宮城県涌谷町)の試験施工の現場を訪れた。
前回の観察日は4月28日だったので、それから60日ぶりの現場だった。
この日の観察のポイントは、過去の知見のとおりにイタドリの萌芽が減少し、衰退に向かっているかを確認することである。
結果は写真のとおりで、想定内の結果だった。
国交省北上川下流河川事務所や涌谷出張所、若生工業の皆様には、試験施工を立派に実施していただき、心より感謝すると同時に、イタドリの恒久対策に対する熱意に敬服しているところである。今後、この方法をイタドリ防止の恒久的対策や予防保全対策として、発展・普及させていただければ幸いである。
なお、試験施工エリアでの経過観察は、イタドリの根絶に要する時間や、モグラなどの小動物の棲息防止の効果、除草量の低減効果、ガリ侵食防止効果などを確認するために、今後も続けていきたいと思っている。
2024年6月29日の全景状況。野芝の下に1mmのジオネットを敷設しているが、野芝は順調に生育している。一方、イタドリの芽は前年よりも激減してほとんど見られない。実験エリアの周りのイタドリは2m近くまで伸びている。(試験エリア内の除草はこの1年間未実施)ネットの継目は折り返し加工したものを採用したので、継目からの萌芽は発生していない。 前年の2023年7月7日の全景状況。2023年1月に1mmのジオネットを施工した試験施工エリア。イタドリの根は残置したので赤茶色の芽が30~40本ほど見える。野芝は一部に未活着な部分がある。(試験エリア内の除草は未実施) 2024年6月29日の状況。試験施工エリア内のイタドリ。前年に地下茎に養分を送ることができなくなり、発芽に必要な養分が少なかったので草丈は10㎝程度で止まった。成長が止まったイタドリは緑色になる。萌芽密度は前年よりかなり減った。ジオネットが地下茎への養分蓄積を確実に阻止したようだ。 前年の2023年7月7日の状況。施工後6か月経った試験施工エリア内のイタドリの様子。部分的に密集して萌芽していて、草丈は20~30㎝になっていた。この時点では地面の地下茎に十分な養分が残っていたらしい。イタドリが赤いのは成長途中を意味して、このイタドリはこの先も成長していく。 試験施工で使用したネット。1mmメッシュで継目を折り返し加工した製品は、タキロンシーアイシビル株式会社の独自の製品で他社では製造していない。継目を折り返し加工しているのは、継目に隙間ができないようにするためである。イタドリは少しでも隙間があるとそこから萌芽するからである。
奥はジオネットを敷設しているエリア。手前はジオネットを敷設していない試験施工エリアで、周辺からイタドリが迫るように萌芽している。数年後には一面にイタドリで覆われるものと思われる。 イタドリ対策の恒久対策であるジオネット工法と、従来工法とのLCCの比較を次の条件で行った。
その結果、100年間で92,000円/m2のコスト高になることが分かった。
①、従来工法で野芝を張替えしても数年で再繁茂し補修が必要になる。
過去の一般的な事例から張替えサイクルを10年と想定し、100年スパンのLCCを算定。
②、従来工法は、深さ50㎝での切土、土砂運搬、段切り、盛土、法面整形、
野芝の張り付け作業があり、工事費ベースで9,000円/m2とし、これに除草費を加算する。
③ 除草費は、除草・集草・梱包・積み込み・積み下ろし・運搬費を含み、
年3回実施で1年あた り144円/m2とした。(東北地方整備局 河川維持工事より引用)
ジオネット工法の場合は防草効果があるので、除草費は通常の50%とみなして
1年あたり72円/m2で算出した。なお、刈草の焼却費用は省略した。
④ ジオネット工法は、深さ10㎝での土の入れ替え、法面整形、ジオネット張り付け
、 野芝の張り付けの4,500円/m2と試算した。
⑤ ジオネット工法は恒久的にイタドリを防御できると想定し、
維持費として除草費(通常の50%)を加算した。
⑥ 単価は工事費(経費含み)とした。
春になり発芽のときには再び維管束を経由して、「貯蔵根」や地下茎から必要な養分を新芽に送り返す。
維管束は人間に例えると、母親と胎内の赤ちゃんを結ぶ臍の緒のようなものである。(下の写真の黄色い糸のようなものが維管束)
私が考えたジオネットによるイタドリの成長抑制手法は、イタドリの臍の緒を1mmメッシュのジオネットで狭めて、養分の出し入れをできないようにし、やがて衰退させるというものである。これによりイタドリは恒久的に防止できるし、イタドリ以外の強害植物であるセイタカアワダチソウやブタクサの繁茂も同様に成長抑制ができるのである。
さらに、モグラの棲息も阻止できるので、モグラを餌ににするキツネなども巣を造ることはできなくなるというメリットもある。
そして、ジオネットと雑草の根毛が絡みつくので、仮に堤防越水が発生しても芝などが流されにくくなり相当の耐侵食性が発揮できるので、安価な費用で越水対策が可能である。
この方法を発案したのは10年程前である。
当初はジオネットの網目を市場に出回っている最小規格の2.5mmで実験したが、この目合いでは養分の出し入れを止められずイタドリは衰退しなかった。翌年、メーカーに頼んで網目を1.5mmに狭くしたが、変化はほとんどなかった。
次の年は1.2mmにしたものの効果は不十分で、4年目に1.0mmにすると、ようやくイタドリが衰退をはじめた。1mmの目合いだと、野芝の根が通過できるので生育には支障ないが、イタドリの成長はくい止めることができる。これを見極めるのに4年かかったが、ジオネットのメーカーであるタキロンシーアイシビル株式会社の協力があったからこそ開発できたことであり、深く感謝している。
4年間で分かったことは次のとおりである。
ジオネットを施工した1年目は、地下茎に養分が残っていたのでかなりの密度でイタドリが萌芽し、草丈も20~30cmに伸びたが、2年目は萌芽本数が激減し草丈も10㎝程度で成長が止まってしまった。これは、前年に葉っぱから地下茎に養分を届けられず、地下茎の残り少ない養分で発芽しようとあがいた結果だと想像できる。
3年目になると萌芽本数はさらに減ってほぼ根絶状態になった。原因は二つ考えられる。一つは地下茎の養分が枯渇した可能性があること。もう一つは、ジオネットの網目が野芝の根毛で閉塞してしまったことである。網目が塞がるとイタドリだけでなく、他の植物も萌芽は難しくなるからである。
2024年6月29日(土)の早朝5時に、国交省が管理する江合川(宮城県涌谷町)の試験施工の現場を訪れた。
前回の観察日は4月28日だったので、それから60日ぶりの現場だった。
この日の観察のポイントは、過去の知見のとおりにイタドリの萌芽が減少し、衰退に向かっているかを確認することである。
結果は写真のとおりで、想定内の結果だった。
国交省北上川下流河川事務所や涌谷出張所、若生工業の皆様には、試験施工を立派に実施していただき、心より感謝すると同時に、イタドリの恒久対策に対する熱意に敬服しているところである。今後、この方法をイタドリ防止の恒久的対策や予防保全対策として、発展・普及させていただければ幸いである。
なお、試験施工エリアでの経過観察は、イタドリの根絶に要する時間や、モグラなどの小動物の棲息防止の効果、除草量の低減効果、ガリ侵食防止効果などを確認するために、今後も続けていきたいと思っている。
2024年6月29日の全景状況。野芝の下に1mmのジオネットを敷設しているが、野芝は順調に生育している。一方、イタドリの芽は前年よりも激減してほとんど見られない。実験エリアの周りのイタドリは2m近くまで伸びている。(試験エリア内の除草はこの1年間未実施)ネットの継目は折り返し加工したものを採用したので、継目からの萌芽は発生していない。 前年の2023年7月7日の全景状況。2023年1月に1mmのジオネットを施工した試験施工エリア。イタドリの根は残置したので赤茶色の芽が30~40本ほど見える。野芝は一部に未活着な部分がある。(試験エリア内の除草は未実施) 2024年6月29日の状況。試験施工エリア内のイタドリ。前年に地下茎に養分を送ることができなくなり、発芽に必要な養分が少なかったので草丈は10㎝程度で止まった。成長が止まったイタドリは緑色になる。萌芽密度は前年よりかなり減った。ジオネットが地下茎への養分蓄積を確実に阻止したようだ。 前年の2023年7月7日の状況。施工後6か月経った試験施工エリア内のイタドリの様子。部分的に密集して萌芽していて、草丈は20~30㎝になっていた。この時点では地面の地下茎に十分な養分が残っていたらしい。イタドリが赤いのは成長途中を意味して、このイタドリはこの先も成長していく。 試験施工で使用したネット。1mmメッシュで継目を折り返し加工した製品は、タキロンシーアイシビル株式会社の独自の製品で他社では製造していない。継目を折り返し加工しているのは、継目に隙間ができないようにするためである。イタドリは少しでも隙間があるとそこから萌芽するからである。
奥はジオネットを敷設しているエリア。手前はジオネットを敷設していない試験施工エリアで、周辺からイタドリが迫るように萌芽している。数年後には一面にイタドリで覆われるものと思われる。 イタドリ対策の恒久対策であるジオネット工法と、従来工法とのLCCの比較を次の条件で行った。
その結果、100年間で92,000円/m2のコスト高になることが分かった。
①、従来工法で野芝を張替えしても数年で再繁茂し補修が必要になる。
過去の一般的な事例から張替えサイクルを10年と想定し、100年スパンのLCCを算定。
②、従来工法は、深さ50㎝での切土、土砂運搬、段切り、盛土、法面整形、
野芝の張り付け作業があり、工事費ベースで9,000円/m2とし、これに除草費を加算する。
③ 除草費は、除草・集草・梱包・積み込み・積み下ろし・運搬費を含み、
年3回実施で1年あた り144円/m2とした。(東北地方整備局 河川維持工事より引用)
ジオネット工法の場合は防草効果があるので、除草費は通常の50%とみなして
1年あたり72円/m2で算出した。なお、刈草の焼却費用は省略した。
④ ジオネット工法は、深さ10㎝での土の入れ替え、法面整形、ジオネット張り付け
、 野芝の張り付けの4,500円/m2と試算した。
⑤ ジオネット工法は恒久的にイタドリを防御できると想定し、
維持費として除草費(通常の50%)を加算した。
⑥ 単価は工事費(経費含み)とした。
2024年5月16日木曜日
堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(7) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)
堤防のセイヨウカラシナ
4月になると堤防の法面に鮮やかに菜の花が咲き、春の訪れを感じることができる。
堤防の菜の花は実は外来種で、正式にはセイヨウカラシナという植物である。
セイヨウカラシナは、野菜としてヨーロッパから移入された越年草だったが、野生化しているものが多い。
地中の実は大根のようになるが食べれないが、新芽は食べられているようだ。
しかし、堤防を守る立場からすると厄介な植物である。
地中の大根のような根は冬期に腐る。腐るとそれをミミズが食い尽くす。すると、地中にはセイヨウカラシナの根の形をした空洞がたくさんできる。
法面が空洞だらけになっている堤防が洪水になると、そこから洪水が浸透したり、侵食が始まる恐れがある。
堤防の菜の花はの、どかな気分にしてくれるが実は危険な現象だと言える。
国交省の関東地方整備局が、セイヨウカラシナに神経をとがらせているのは、そのような事情があるからである。
北上川下流河川事務所が管理する北上川や江合川でも、セイヨウカラシナが咲いていて同様な問題が発生している。
堤防の法面にジオネットを敷いておけば、セイヨウカラシナの根は物理的に太れなくなるので、抜本的な対策になれるものと期待している。
江戸川を管理する国交省の三郷出張所では、セイヨウカラシナの根が太らないように早めに除草する対応をしているが、堤防法面の腐葉土化が進行しており対策が必要となっている。(三郷出張所が江戸川流域の住民に配布したチラシ) セイヨウカラシナの根が腐り、ミミズに食べられた跡。根の形をした空洞ができている。(江合川の堤防に咲いているセイヨウカラシナ) ジオネットはセイヨウカラシナの防止対策に適役だ。
4月になると堤防の法面に鮮やかに菜の花が咲き、春の訪れを感じることができる。
堤防の菜の花は実は外来種で、正式にはセイヨウカラシナという植物である。
セイヨウカラシナは、野菜としてヨーロッパから移入された越年草だったが、野生化しているものが多い。
地中の実は大根のようになるが食べれないが、新芽は食べられているようだ。
しかし、堤防を守る立場からすると厄介な植物である。
地中の大根のような根は冬期に腐る。腐るとそれをミミズが食い尽くす。すると、地中にはセイヨウカラシナの根の形をした空洞がたくさんできる。
法面が空洞だらけになっている堤防が洪水になると、そこから洪水が浸透したり、侵食が始まる恐れがある。
堤防の菜の花はの、どかな気分にしてくれるが実は危険な現象だと言える。
国交省の関東地方整備局が、セイヨウカラシナに神経をとがらせているのは、そのような事情があるからである。
北上川下流河川事務所が管理する北上川や江合川でも、セイヨウカラシナが咲いていて同様な問題が発生している。
堤防の法面にジオネットを敷いておけば、セイヨウカラシナの根は物理的に太れなくなるので、抜本的な対策になれるものと期待している。
江戸川を管理する国交省の三郷出張所では、セイヨウカラシナの根が太らないように早めに除草する対応をしているが、堤防法面の腐葉土化が進行しており対策が必要となっている。(三郷出張所が江戸川流域の住民に配布したチラシ) セイヨウカラシナの根が腐り、ミミズに食べられた跡。根の形をした空洞ができている。(江合川の堤防に咲いているセイヨウカラシナ) ジオネットはセイヨウカラシナの防止対策に適役だ。
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