2022年6月12日日曜日

越水対策の行方 「河川堤防の強化に関する技術検討会」発足 (1)

 2019年10月に発生した台風第19号。全国で142箇所の河川堤防が決壊し、このうちの86%が越水が原因の破堤だと国交省が公表した。
 
 国交省は、翌年の2020年2月14日に、「令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会」(座長は中央大学理工学部の山田正教授)を発足させて、同年3月25日に2回目を、6月12日に最終の検討会を実施。
 検討会では業界団体が保有する資材や工法について意見を募集。全国建設業協会の構成員の私が在籍する会社にも応募の案内がかかる。私からは、国交省が5箇年計画で進めてきた川裏の法尻ブロックを活かしつつ、その上部をジオネットと野芝で被覆する方法を提案した。
 
 検討会の委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)は、国総研の所長時代に「日経コンストラクション」の2017年6月12日号のインタビューで次のように語る。
 「法面への植生は意外に効く。条件がよければ、流速5~6m/秒でも10時間は持つ。簡素な構造だから、施工にそれほど費用がかからない。さらに対策距離を結構稼げる。減災の恩恵を早く普及させるために重要な視点だ」

  まさに慧眼である。堤防高が2mぐらいだと越水の流速は5~6m/秒以下だ。状態の良い野芝などの植生だけで10時間以上は耐えられるのだから、芝の根毛を1mmメッシュのジオネットで捕捉してやれば、芝が流されにくくなって耐侵食性は格段に伸びるはずである。さらに、1mmメッシュのジオネットだけでもかなりの耐侵食性が期待できる。
 しかも、費用は1m2あたり5千円以下で済む。施工性も良くコストが安いので、藤田委員が望むように対策距離を大幅に広げることが可能だ。
 
 けっきょく私の案を含め14団体から81件の提案が集まり、検討会の事務局である治水課や国総研、土研、国土技術センターが、各業界ごとに意見交換をすることとなった。

 全国建設業協会からの技術提案は、私とサイレントパイラーで有名な㈱技術製作所の2件のみだった。2020年10月16日に90分間の意見交換が行われ、私の提案に事務局から様々な質問が寄せられ、私からは次のような発言をした。

【嶋津の意見】
 国交省が危機管理型ハード対策と称して、5箇年計画で越水により堤防決壊の可能性のある全国の630㎞の堤防の川裏の法尻をブロックで被覆する事業を、膨大な費用をかけて整備してきた。当時、国交省は越水破堤の原因が川裏の法尻が侵食によるものだと見立ていた。この工法は国総研が様々な実験を繰り返し、苦労をしながらブロックの凹凸の高さや形状、寸法などを決めた。
【参照】国総研資料 第 911 号 http://www.nilim.go.jp › bcg › siryou › tnn › tnn0911 

 今後の粘り強い堤防強化にあたっては、当然ながら国総研が決定し全国で630㎞も整備された法尻のブロックによる補強対策を活かすべきである。これを反故にしたり使い捨てするのは税金の無駄遣いになるし、国総研の努力が水の泡になってしまう。何のために膨大な時間と予算を費やして様々な試験を繰り返したのかと、当時の国総研の担当は嘆くだろう。国総研が定めた法尻ブロックは、法尻の侵食防止対策としては十分な効果が期待できるのである。

 越水で堤防が侵食されるのは川裏の法尻だけではない。川裏の法肩や法面から侵食されているケースも多々ある。今後の越水対策は、5箇年計画で整備した法尻ブロックよりも上部の法面について、耐侵食性を向上させるための経済的な被覆工法を追加することを検討すべきであり、設置済みの法尻ブロックを見殺しにするべきではない。

 以上の私の意見に対して、事務局からコメントは出されなかったので、事務局も私の意見と同様なのかなと思った記憶がある。

 2年前に治水課が開催した「令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会」は、2022年5月20日、委員のメンバーをそのままにして、「河川堤防の強化に関する技術検討会」を新たに立ち上げ、難題である越水対策に挑むことになった。
 植生の耐侵食性に見識の深い、前述の藤田委員も含まれている。
国総研の法尻ブロックの水理実験状況。様々な形状や条件で実験が繰り返された。
危機管理型ハード対策として5箇年計画で全国に整備された法尻ブロック。これを見殺しにしてはいけない。
私が提案する工法。危機管理型ハード対策の法尻ブロックを活用し、法面をジオネット+野芝で被覆するもの。1m2あたり5千円で施工できる。

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