2022年5月20日、前回の検討会の委員のメンバーによる、「河川堤防の強化に関する技術検討会」が開催された。国交省の水管理・国土保全局長が冒頭あいさつ。司会は治水課の奥中企画専門官、資料の説明と質疑は永松流域減災推進室長が対応した。
2年前に関係業界団体から81件の技術提案があったものの、ある条件下では効果を有するものもあるが、既存堤防が有する機能を毀損しないという点や、越水時の効果に幅や不確実性を有しているなど、現段階で設計できる段階には至っていないということ。そして、堤防強化に用いる資材・工法の長期的な機能の継続性や維持管理の容易性についての知見も十分とはいえないことから、検討会を再出発させるとのことだ。
前回提案された81件の各技術に、具体にどのような不確実性があったかについては言及はなかったが、提案された81件のすべてが設計できる熟度に達していないことになり、事務局の治水課や提案側の業界にとっても、たいへんな難題であることは間違いない。
今回の検討会でのポイントは、今後、業界等に求めようとする越水対策の技術開発目標が数値として示されたことにある。
近年の越水事例や避難に要する時間、過去の研究成果などを踏まえ、技術開発目標を、越流水深30cmの外力に対して、越流時間3時間は越水に対する性能を保持できる構造とした。
そこで思い出すのは、検討委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)の、「日経コンストラクション」の2017年6月12日号のインタビューだ。
「法面への植生も意外に効く。条件がよければ、流速5~6m/秒でも10時間は持つ。簡素な構造だから、施工にそれほど費用がかからない。さらに対策距離を結構稼げる。減災の恩恵を早く普及させるために重要な視点だ」と発言している。藤田委員は国総研で植生の耐侵食性の研究の経験があり、この分野の第一人者だ。
越水時の法尻付近の流速Vfは、堤防の高さや勾配、越水高さなどで変化し、次式で算出できる。(引用 国土技術研究センター)
平成28年8月洪水の常呂川(北海道)等での越流データーがある。これは、国総研寒地土木研究所が調査・推定したものである。
常呂川22.5kpでの堤防高は3.0mで法勾配は2割5分、越水高は0.3mの時の法尻付近の流速を3.66m/秒と推定している。データーが無いので不確かではあるが、国内の殆どの堤防高は3.0m~5.0m以下と思われる。
したがって、越流水の法尻付近の流速が6m/秒を越すのは稀ということになる。つまりは、状態の良い植生を維持できれば、越流水深30cmの外力に対して、越流時間3時間は越水に対する性能を保持することは十分可能になるということになる。
しかし、植生を常時良好な状態に維持することは困難である。ゴルフ場の芝と異なり、必ず小規模な裸地部やガリ侵食、モグラの巣が発生したり、イタドリなどの雑草が茂って周辺の芝を枯らしてしまう。植生を均質な状態に保つことは不可能と言える。
これをカバーするのが高密度ポリエチレン製の網のジオネットだ。網の縦と横の糸は結束されているので広がることはない。穴の直径は1.0mmで細かく吸出し防止材としても使える。背丈の高い雑草は繁茂しにくいが、芝などの根毛は十分通過できるサイズだ。この網に芝の茎や根毛が絡みつくので、越水のように流速の早い水流があっても簡単には流されない。仮に、植生がすべて流されても、このジオネット自体が植生以上に耐侵食性があるので、検討会がめざす越流時間3時間は容易に達成できそうである。しかし、事務局は越水時の効果に幅や不確実性を有していると判断したらしい。
1mmメッシュの特注品のジオネット。低価格で耐久性も高い。
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