2022年6月16日木曜日

越水対策の行方 「河川堤防の強化に関する技術検討会」の論点 (3)

 国が管理する河川の延長は約11,000㎞(ダム区間含む)で、自治体が管理する河川を加えると全国で約153,000㎞になる。国管理の河川堤防の必要区間延長は、両岸で約13,000kmに及ぶ。
 令和元年の台風第19号では142箇所で堤防決壊が発生し、このうち122箇所は「越水」が決壊の主な要因と推定される。浸透による決壊はわずか2箇所のみだった。堤防の決壊原因が越水がほとんどだというのであれば、まずは越水に的を絞って技術開発を目指すのが常道だろう。二兎を追う者は一兎をも得ずのいわれもある。

   危機管理型ハード対策として全国の630㎞の川裏に法尻ブロックを整備したが、台風第19号で実際に対策済みの箇所で越水があったのは都幾川の1箇所だけだった。法尻ブロックを整備した区間は越水の可能性が高いと想定された区間なのだった。しかし、実際に越水が発生したのは、法尻ブロックを設置した全国の630㎞のなかで、都幾川の約370mの区間だけだった。この630㎞に対して370mの確率は、越水の発生個所を想定することは非常に困難で、堤防のあるところはどこで越水が発生してもおかしくないことを示している。
過去に危機管理型ハード対策として法尻ブロックを設置していたが、越水で法尻ブロックが変形している。法尻ブロックがあれば越水に対抗できるという考えは幻想といえる。裏法面はすべて被覆しないと、越水に対抗できないことを上の写真が証明している。(都幾川)

 どこで発生しても不思議がないのであれば、越水対策はすべての河川堤防を対象にしなければならないということになる。

 下の資料は、国交省の治水課が作成した検討会の資料。川裏の全部の法面をブロックで被覆すると、最低でも100万円/1m(つまり1㎞あたり10億円になる)かかるという。これを国の堤防の必要区間の13,000㎞で越水対策すれば10億円/1㎞×13,000㎞=13兆円になる。
 令和4年度の水管理・国土保全局関係の全予算は0.95兆円。仮にダム建設や維持管理を中止し越水対策だけに集中投資したとしても13年かかるということになる。まして、自治体が管理する堤防も整備するとなれば100年以上もかかるかもしれない。

   越水対策を論じるうえで最も優先されるのはコストである。予算のあてがないのに立派な構造で対策しようとしても、実現できなければ計画は単なる絵に描いた餅になってしまう。
 年収100万円のサラリーマンが1億円もするマイホームを建てるようなもので、早晩にローン破産することはだれにも予想がつく。予算と照らし合わせながら、効率的な越水対策の構造を検討することが基本だ。藤田委員が、施工にそれほど費用がかからない方法で対策範囲を稼ぎ、減災の恩恵を早く普及させることが重要な視点だと述べているように、現実的なコストで粘り強い堤防を一日も早く完成させることが求められている。

   現実的な予算規模は15万円/1m程度かもしれない。12万円で法尻ブロックを張り、3万円で法面の侵食防止対策を行うと、10箇年計画でなんとか実現できるかもしれない。
 越水対策を検討する上で、まずは、越水対策の対象延長(面積)を試算し、全体の概算額をつかむことが基本で、構造検討の第一条件とすることが必要だ。
 もちろん、事務局の治水課でも当然ながら越水対策の基本的な論点としているはずである。  

0 件のコメント:

コメントを投稿