2020年3月30日月曜日

耐越水シートの開発⑨ (第2回 技術検討会が開催される)

 2020年3月25日、国交省は「河川堤防に関する技術検討会の2回目の会合を開催した。

 越水対策として、会合で議論されたのは2008年10月に示された、土木学会の「越水堤防整備の技術的な実現性の見解についついて」。この中には対策工法として、表被覆型、断面拡幅型、一部自立型が提案されている。

 表被覆型には、コンクリートブロック被覆、シート被覆、網系素材被覆、アスファルト被覆、改良土等被覆がある。

 この中から、耐侵食性、コスト、点検のしやすさ、維持修繕のしやすさ、空洞発生時の対応のしやすさ、シートの継目の確実性、被覆上での植生の実現性などの観点で検討が行われることとなる。

 同検討会では、堤防強化における民間技術について4月中に、関係する業界団体にヒアリングを行い、5月ごろに開催予定の第3回目の検討会で報告され、対策工法を絞る見通しとなっている。

2020年3月26日木曜日

耐越水シートの開発⑧ (シートの継目の溶着)

 吸出し防止シートの継目を溶着することで、越流水が継目に侵入できなくなり堤防裏法面の侵食が発生しにくくなることは、土木研究所の実験で立証されている。

 シートの溶着は、下の写真のように傾斜している堤防の法面で、一人はシートを押さえ、もう一人は溶着器具を操作するために、どうしても二人がかりとなるので相当の費用がかかる。

 また、吸出し防止シートは樹脂製であり、高温で溶着すると「熱劣化」が発生することがある。加熱された部分が脆くなって破断する「脆性破壊」である。溶着部付近のシートが破断すると、そこが弱点になるので、温度管理などの品質管理をしっかりと行うことが求められる。


 作業に手間がかかり、品質管理が必要な継目の溶着よりも、もっと簡単で確実に継目処理ができ、品質管理も不要でスピーディーに施工できる方法があれば、堤防裏法面の耐越水性能は大きく向上する。



 

2020年3月25日水曜日

耐越水シートの開発⑦ (シート上を植生で覆う)

 耐侵食性能を確保しつつ、芝などの植生が可能なシートが耐越水シートの有すべき性能と考えられる。

 野芝の根毛の太さは0.3~0.5mm程度。シート上を芝で覆うためには、シートに芝の根毛が通過できるほどの穴が空いていなければならない。

 遮水シートには穴や隙間がないので、芝等の植生は不可能である。
 不織布による吸出し防止シートは、排水などは可能なものの、芝の根毛がシートを通過し土壌に入り込むほどの余地はないので、芝の生育は難しい。

 補強土壁の壁面材として使用される「ジオグリッド」は、高密度ポリエチレン製の網で、恒久的な耐久性を確保しつつ、背面土圧に対応できるように芯材が太く強度を有している。
 ジオグリッドと同じ材質で防風や法面保護等に利用されるのが「ジオネット(タキロンシーアイシビル㈱)」。価格は1m2当り1000円と廉価である。(㈱タキロンシーアイシビル)

 下の写真は網目の目合が1.0mmのジオネットの上に野芝を張っている状況。
 網目の大きさが、爪楊枝の太さよりも狭いが、芝の根毛が自由にジオネットを通過し、地山に根を伸ばすことができるので、芝の生育に支障はでない。

 越水時の耐侵食性は、網目の目合が狭いほど向上する。
 元国土交通省の技監だった東京大学の池内教授が、若いころに行った実験によると、植生とジオネットを併用した場合には流速6~7 m/sまで耐侵食効果があったとの報告がある。

 低コストで耐侵食性能を確保しつつ、覆土が無くても芝などの植生が可能なのは、ジオネット(タキロンシーアイシビル㈱)のみである。
 覆土が不要となると、ジオネットの点検も各段にしやすくなるメリットもある。
 



ジオネットの上に野芝を張った状況。 


2020年3月23日月曜日

耐越水シートの開発⑥(当面は裏法面の被覆が基本)

 台風第19号の被災を鑑み国交省が設置した「河川堤防に関する技術検討会では、国交省が全国で4年前から実施している、天端舗装や法尻ブロックなどの「危機管理型ハード対策」の改良版として、裏法面をシートやコンクリート等で被覆する工法について検討していくこととしている。

 下の検討会資料では、シート張り+覆土と、ブロック張の2種類について提起しているが、全国の河川の膨大な延長をブロック張にすることは、コスト的にも、親水性の確保のためにも困難であることは、直ぐに想像できる。

 つまり、消去法でシート張り+覆土案が残ることになる。

 シートの種類は、遮水シート、吸出し防止シート、ジオネット(あるいはジオグリット)が考えられる。
 
 遮水シートの上に覆土すると、遮水シートがすべり面になり、法崩れが発生しやすくなる。吸出し防止材でも材質によっては法崩れが発生する可能性がある。

 また、過去の実験でシートの継ぎ目で侵食しやすいことから、継ぎ目は溶着が必要になる。傾斜のある法面での溶着作業は簡単にはできないし、溶着部でシートが熱劣化を発生し、時間の経過で脆性破壊する可能性もある。覆土の厚さは30cmから50㎝と想定されるが、覆土してしまうと、シートの破断状況は点検することも補修も難しくなる。

 しかし、遮水シートの場合は、覆土しないと植生が根を張ることができないので、堤防法面の緑化は不可能である。 

 したがって、吸出し防止シートまたはジオネットに野芝を張るか、厚さ3㎝程度の客土吹き付けをする方法が想起されるのである。
 

国交省の河川堤防に関する技術検討会の資料(資料3-1より)
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2020年3月14日土曜日

耐越水シートの開発⑤(裏法面の耐越水対策の論点)

 国交省の河川堤防の検討会は2020年2月14日に初会合を開催した。座長は中央大学の山田教授である。

 検討会は、危機管理型ハード対策として、天端舗装と裏法尻ブロックが整備されていた、埼玉県の都幾川で破堤はしなかったものの、裏法面が侵食されたことを受けて、裏法面の被覆を中心とした強化工法を検討することになる。

 検討会の事務局が示す論点は次のとおりで、なかなかハードルは高いが、すべてをクリアする方法を考えなければならない。

【裏法面の強化の検討における課題】

① 規模が膨大であり低コストであること。
② 強化機能が継続できる方法や材料であること。
③ 維持補修が容易であること。
④ 点検が容易であること。
⑤ シートの場合、継ぎ目から越流水が侵入しにくい構造であること。
⑥ 沈下による空洞化に対応できること。

2020年3月11日水曜日

耐越水シートの開発④(川裏法面をシートで補強)

 2018年11月の参院の国土交通委員会で、越水対策として川裏法面をシートで覆う方法の是非について問われ、石井国交大臣は次のように答弁している。

「実物大の大型堤防を用いて越流の実験を行ったところ、遮水シートを裏法に敷いて継部を接着しない場合には、継部への流水の集中に伴って裏法面の侵食が急激に進行するという実験結果がある。そのような懸念があるので、現時点では堤防裏法面の対策を実施していない」

 下の写真は、吸出し防止材で川裏法面を覆い、耐侵食性の効果を確認する土木研究所の実験状況だが、シートの継部が広がり、石井大臣の答弁のように侵食が進行している。継部は2枚のシートを単純に重ねただけの構造である。越流水が重なったシートの隙間から流れ込み、侵食されたのである。土木研究所は継部を溶着したシートでも実験しているが、侵食量は比較的少なかったとしている。

 シートの継部を、簡単で強靭な構造にすることができれば、この課題は克服できそうである。
 

土木研究所の実験状況(国交省の台風19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会の資料)
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2020年3月8日日曜日

耐越水シートの開発③(法尻ブロックだけでは不安)

 私が危惧していたとおり、国交省が5ヶ年計画で推進していた危機管理型ハード対策の実施箇所で、裏法面の侵食が発生した。
 埼玉県東松山市を流れる都幾川の左岸である。法尻ブロックは2017年度に施工された。

 越流の水深は約10㎝で、越流時間は約8時間、堤防高さは2.7mだった。

  2015年9月の関東・東北豪雨の被害を経て、国交省が決壊に至るまでの時間を少しでも稼げるように工夫したのが「危機管理型ハード対策」だった。越流水深が10㎝と浅かったものの、堤防が8時間耐えたのは、その目的の粘り強さが十分発揮されたとの見方があるが、法肩や法面がかなり侵食されていて、もう少しで破堤するように見える。


  越流水深がもう少し深かったり、堤防の高さが今より高ければ破堤していた可能性があることは否めなく、全国で630㎞施工された法尻ブロックの効果に不安感が生まれる。

 もう、法尻ブロックだけでは越水破堤の防止は困難だ。裏法面全体の被覆工の検討が必要である。 
 
  


2020年3月5日木曜日

耐越水シートの開発②(法肩から侵食が始まるケースもある)

 越水で侵食されるのは川裏の法尻だけではないことを、3年ほど前から警告してきた。

 危機管理型ハード対策で法尻だけをブロックで補強しても、法面や法肩でも侵食されるので対策の見直しが必要であることは、台風19号が来襲する1年以上前から、何度かこのブログでも訴えていた。(2017年の7月頃)

 昨年(令和元年)の秋、台風19号が去ったあと、国交省北上川下流河川事務所が管理する吉田川の上流の善川へ行ってみた。吉田川では越水破堤した箇所があり、多くの家屋が流されたり浸水した。善川では数箇所で堤防の損害が発生していた。

 川の周りは水田が多く、洪水で稲わらが堤防の周りに流れ着いて堆積していた。
 よく見ると、堤防の法肩が侵食されていた。東京理科大学の二瓶研究室で行われた実験と同じ現象が、本物の堤防でも発生していたのである。法尻では侵食は見られなかった。
 越水による川裏の侵食が常に法尻から始まるという定説に基づいて、国交省の治水課は「危機管理型ハード対策」と称して、法尻の2mだけをコンクリートブロックで補強する方針を決めたが、実際は、堤防の土質や植生の状況で法肩や法面も侵食されることが露呈されたのである。

 堤防の越水対策で、最も重要なことは何だろうか。それを考えさせるのがこの写真である。


東京理科大の実験状況

2020年3月4日水曜日

耐越水シートの開発①(越水破堤の原因は何か)

  2019年10月の台風19号で、国が管理する河川が12箇所で決壊した。決壊の原因はすべて越水によるものであったと、国交省の調査委員会が分析している。県が管理している128箇所の堤防の決壊の原因もまた、越水が主原因であった。

 越水による堤防の決壊が注目されている。
 2020年2月24日付けの日経コンストラクションは「消された堤防」というタイトルで、越水破堤に目を背けてはならないことや、危機管理型ハード対策で天端舗装や、法尻ブロックだけでは不十分なこと、越水破堤の防止のために研究が必要なことなどを18頁の紙面をさいて訴えている。

 2015年12月、国土交通省は「危機管理型ハード対策」として、全国の約1800㎞で、堤防の天端の舗装(1310㎞)や、堤防の裏法尻のブロック張工(630㎞)を、2020年度までの5ヶ年で整備することを公表した。
 
 しかし、なぜブロック張を法尻から2mだけに決めたのか、その根拠は示されていなかった。
 また、法尻ブロックの上部の法面には芝がびっしり生えているという条件で、人工芝を敷いて法尻ブロックと裏法の境界部について、耐侵食性の確認の水理実験をしている。
 
 ゴルフ場のように日々手入れをしないと、芝をびっしりと生やすのは難しい。管理が行き届いているように見える公園の芝でさえ、目を凝らして観察すると、地肌だけの部分が多いことに驚く。越水流は地肌などの弱い箇所を集中して洗堀する。

 越水により堤防はどのように侵食されていくのか。
2015年に東京理科大学の二瓶教授が実物大の実験している。実験は天端に舗装が施工されている状態で行われた。法尻が最初に洗堀されると思っていたが、実際は法肩に近い法面からだった。