2023年10月11日水曜日

堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(5) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)

 国土交通省が管理する江合川の試験施工箇所の9月29日時点の状況。

 前回の観察日は8月16日だったので、それから約40日経過している。

 試験施工エリアのイタドリは、8月の時は葉っぱが青かったが、今回はほとんどが色づいている。中には枯れてしまい幹しか残っていないものもある。一方で試験施工エリア外のイタドリは葉の青いのが多く残っている。

 どうして同じ季節で、枯れたり色づくイタドリと、青青と元気なイタドリがあるのだろうか?

 ジオネット越しに生えたイタドリは維管束が1mmと細くなるので、葉緑素で作ったデンプンを地下に送ることができなくなる。

 維管束は、根から吸い上げた水分や養分が通る道管(どうかん)と、葉でつくられた栄養分が全身に運ばれるための師管(しかん)がたくさん集まって束になっているところだが、目合いが1mmのジオネットがボトルネックになって、それ以上太ることができないのだ。

 イタドリは地下の深いところに地上で生成された養分を貯めておく「貯蔵根」があり、春になると地上部の発芽のために「貯蔵根」から養分が輸送される。その役目を担うのが維管束である。人間で例えるならば臍の緒ということになる。

 臍の緒がジオネットで1mm以下に狭められると、地中と地上との水分や養分の輸送が困難になり、地上のイタドリは大きくなれない。葉から送られてくる養分はジオネットの上部のイタドリの根に貯めるしかないから大きく成長することはできない。

 ジオネットの上の厚さ1㎝程度の土壌では、盆栽鉢の植物のように成長が難しいはずだ。来夏、イタドリがどうなるかを興味深く観察するつもりだ。
江合川の試験施工の状況。(2023.9.29) ジオネットを通り抜けて萌芽したイタドリたちは殆ど枯れてしまっている。野芝の下に敷いたジオネットがイタドリの成長を抑制していることが確認できた。この効果が何年続くのか、長期スパンでの観察を続けるつもりだ。
 枯れたイタドリの幹。周りのイタドリはまだ枯れてはいないのに、なぜ、早々と枯れてしまったのか謎である。来夏、枯れたイタドリの根元から新たに萌芽すると思われるが、その後、どのように成長するのかを見極めたい。      

2023年10月3日火曜日

堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(4) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)

 宮城県土木部が管理する広瀬川にはイタドリが繁茂している箇所が多い。草丈は3mに及ぶものもある。
 
 堤防の除草は年に1回。今年は8月の下旬だった。以前は年に2回刈ってくれたが、予算不足で減らされたのだろう。

 写真の場所は近所の住人たちの散歩道となっている。夏の暑い日は火照ったアスファルト舗装を避けて、人間や犬たちがこの小径を通る。

 しかし、初夏にはイタドリなどが3m近くまで伸び、ジャングルになって小径を塞いでしまいだれも通らなくなる。

 3mに成長したイタドリは、幹が樹木のように固くなり鎌では刈れなくなる。数年前から時々ボランティアで草刈りをしていたが、固くなったイタドリで鎌がすぐに切れなくなったり変形してしまう。草刈りを2週間ほどサボっていると、小径はジャングルに変貌してしまう。

 草刈りをしなくても、何時でも散歩できるようになれば住民たちが喜ぶだろう。自然のままの広瀬川は気持ちがいい。車を気にしないで自然を堪能できる。河原には木が茂り、せせらぎの音に混じって小鳥たちのさえずりが聞こえる。河川愛護の気持ちも生まれるだろう。それに、堤防点検もスムーズにできるはずだ。

 住民から親しまれているこの小径がジャングルにならないようにしたい、そんな想いで昨年(2022年)の春に、堤防の法面にジオネット(タキロンシーアイシビル社製)を敷いた。たった1m四方だけだが、この1年半の間にイタドリは1本も生えてこなかった。ジオネットはイタドリの成長を恒久的に制御できそうだ。

 ジオネットは耐侵食性もある。洪水が地面に直接当たらないので侵食されにくくなるのだ。また、草の根がジオネットを通って地面に根を張っているから、根がアンカーピン代わりになって洪水が当たってもネットは簡単には剝がれないだろう。

 堤防のすべての法面にジオネットを敷くのは予算的に不可能だが、利用頻度が高い場所や洪水の弱点となるような場所に、限定的に施工することは可能だ。

 大事なことは、河川管理者に改善を図ろうとする熱意や情熱があるかどうかだ。

1か月前に除草したものの、イタドリは1mまで再生してしまった。しかし、試験箇所には生えておらず、ジオネットがイタドリを制御していることが分かる。
除草前の小径の状況(6月11日時点)。イタドリは3m近くまで伸びてジャングルのようになっていた。こうなると、カマでの除草は困難だ。散歩だけでなく堤防の点検もできなくなってしまう。(写真中央のカマの長さは1.2m)      

2023年8月20日日曜日

堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(3) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)

2023年の1月に国土交通省が管理する堤防で、ジオネット(タキロンシーアイシビル社製 強害雑草抑制ネットの1mmメッシュ)を利用して、イタドリの成長抑制対策の試験施工を行った。

 その後、堤防の表土を15cm削ってジオネットを敷き、その上に野芝を張ったエリアには、7月7日時点でイタドリの新芽が、1m2あたり2~3本程度の割合で萌芽していた。
それから40日経過した8月18日。再び現地に行ってみると、イタドリの成長は停滞していて草丈はほとんど変化がなかった。この状態だと堤防の点検は問題なく行えるだろう。

 また、40日前には元気だったはずのイタドリの芽が、立ち枯れているのが何本もあり、一方で60㎝ほどまで伸びているのも3本ほどあった。
 60㎝まで伸びたり、枯れたりするのはなぜだろうか。これを究明すれば新しい技術が生れるかもしれない。
 
 イタドリが河川管理者から嫌われる理由は、ひとつは3mまで延びるイタドリが密集すると、堤防の点検の邪魔になるからだ。二つ目は、イタドリが繁茂すると日光が下草に届かないので堤防の表面が裸地化し、雨や洪水で侵食されやすくなるからだ。
 裸地化の原因はイタドリが発するアレロパシーのせいだとの説もある。

 イタドリの成長はおおむね8月で止まる。
 試験施工の効果は十分といえよう。
 
国交省の堤防での試験施工エリア。令和5年7月7日の時点。小さなイタドリが萌芽していた。
 同じエリアの令和5年8月16日時点の状況。前回の観察から40日経過したが、イタドリはほとんど成長していなかった。この状況だと堤防点検は支障なくできそうだ。なお、試験エリアの周りは1度除草したのにも関わらず、イタドリなどがすでに1m以上にのびていた。

2023年8月7日月曜日

堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(2) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)

 国土交通省が管理する堤防で、ジオネット(タキロンシーアイシビル社製 強害雑草抑制ネットの1mmメッシュ)を利用して、イタドリの成長抑制対策の試験施工を行った。

2023年の1月に工事を行い、それから5か月ほど経った6月初旬の状況が下の写真。中央の芝が試験エリアで、その周りは従来のままの法面。周りはイタドリやほかの雑草が1m以上に伸びている。

 この時点ではジオネットの有無に関係なくイタドリがほとんど生えていなかった。

 従来、イタドリが繁茂した場合は、堤防法面を深さ50㎝掘削し、さらにその切土面を階段状に仕上げる「段切り」をしてから新しい土を盛土し、最後に野芝張る。この方法だと1m2あたりの工事費用(経費込み)は約1万円ほどになる。

 土を50㎝入れ替える場合、イタドリの地下茎の9割程度が除去される。しかし、イタドリの地下茎は地下2mまで延びているので、残った地下茎から萌芽が始まる。50㎝の盛土の中を突き抜けて地表面に萌芽するまでに、正確にどのくらいの時間を要するのかは不明だが、2~3年ぐらいでポツリポツリと萌芽し始めて、4~5年後には元の状態に戻るらしい。

 このブログでは、その5年間を追跡報告してみたいと思う。

写真の手前から1本目の杭までが、50㎝土を入れ替え野芝を張ったエリア。1本目から2本目の間は、50㎝の土を入れ替えて1mmメッシュのジオネットを敷設してあるエリア。その奥のエリアは15㎝土を入れ替えてジオネットを敷設したエリア。ジオネットを敷設したエリアは若干、芝の生え具合が劣る。
ジオネットを敷設していないエリアで、モグラかアナグマが穴を掘った形跡が3か所見つかった。ジオネットを敷設しているエリアではその形跡がなかった。
モグラかアナグマが掘った穴の形跡。

2023年7月18日火曜日

堤防でイタドリの成長抑制の試験施工を行う(1) (堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策に挑む)

 河川の堤防で、令和5年1月にイタドリの成長抑制をめざした試験施工を国交省が行った。

 ジオネットは私が特許を得た1mmメッシュで端部が折り返し加工されたものを使用する。(タキロンシーアイシビル社製の「強害雑草抑制ネット」)

 ジオネットの継目を単純に重ね合わせただけにすると、イタドリが継目の隙間から萌芽するからだ。イタドリはどんなに狭い隙間でも這い出してくる。

   試験施工は国交省側の都合で1月になった。
 厳寒期の1月に野芝を張って、はたして芝が活着できるだろうかと心配だった。

 試験施工は3パターンで行われた。
 パターン①は堤防法面を15cm掘削して、良質土を15cm補充。法面整形をしてからジオネットと野芝を張るケースで、恒久的にイタドリの成長抑制をめざすものだ。

 パターン②は、堤防法面を50cm掘削し、段切りをして良質土でもとの高さまで盛土し、法面整形をしてからジオネットと野芝を張るケース。これも恒久対策になる、

 パターン③は、堤防法面を50cm掘削し、段切りをして良質土でもとの高さまで盛土し、法面整形をして野芝を張るケース。このパターンは以前から各現場で行われている従来型の芝の張替え手法だ。

 イタドリは深さ2mのところにも地下茎を張り巡らすことがあり、地下茎を少しでも取り残すと、残った地下茎から芽を伸ばし3~4年後には再繁茂する。したがって従来の工法は恒久的な対策にはならない。この試験施工がめざすのは恒久的な予防保全である。
 
 今回の試験施工では、次の項目の検証ができると期待している。

①折り返した継目の効果
②コの字型のアンカーピンの是非
③ジオネットのイタドリの成長抑制効果
④モグラの防止効果
⑤芝がジオネット上で生育の可否
⑥適正な掘削深さの確認
⑦施工上の問題点
⑧除草量や除草回数の逓減効果

 
 何もしないで黙っていても、新しい技術は生まれない。
 試験施工で多くの知見が得られれば、その分だけイタドリの成長抑制技術は確実に進化する。
 国交省が私の提案する恒久的な予防保全対策に期待して、試験施工してくれたのはとてもありがたく技術者冥利の極みである。

イタドリ根っ止のカタログ → https://www.kensetsu-plaza.com/catalog/post/49352

 ジオネットの貼り付け作業。継目にコの字型アンカーピンを打ち込んだ。コの字型アンカーピンだと、ジオネットが破れにくい。
 別の現場でU字型アンカーピンを使ったところ、ピンがだんだん狭くなっていくので、ジオネットが破けてしまった。イタドリはこの破れた箇所から確実に芽を伸ばす。アンカーピンはコの字型でないといけない。
梯子を使ったジオネットの貼り付け作業は、足を踏み外し易いので難しくなる。足場板をこの図のように加工した作業足場が必要だということが分かった。
手前がパターン①、奥が②と➂。②と➂は土を50㎝入れ替え、段切りもしたので、イタドリの芽がまだ地上に到達していない。手前のパターン①は15㎝の入れ替えなのでイタドリの地下茎が温存されていて、発芽が多くあった。しかし、通常であれば1m以上に伸びるイタドリは、5~20㎝に成長が抑制されている。
パターン①のエリアで発芽したイタドリ。撮影は7月7日。イタドリは発芽してもジオネットで成長が抑制されている。この程度だと、堤防点検には支障がないので、ジオネットの効果があったといえる。今後、秋までにどれ程まで伸びるのか、来夏はどうなるのかを観察していくことになる。
試験施工で使用したジオネットの継ぎ目は嵌合式(嚙合わせる方式)なので、隙間が発生しない。隙間がないとイタドリは侵入できないし、侵食もされにくくなる。施工も楽になるというメリットがある。北海道開発局旭川開発部では本格的に実装施工している。    

2023年6月5日月曜日

4. 堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策

 国土交通省の仙台河川国道事務所の名取川出張所が2年前に発表した論文を読んだ。

「堤防法面に適した植生管理の試行について」というタイトルで、オオブタクサを排除するために、堤防法面を掻き起した顛末を発表している。

 出張所の担当は、オオブタクサが繁茂する箇所を掻き起して野芝の種子を散布してみたのだが、かえって広く繁茂してしまったという。
 たぶん周辺にこぼれていたオオブタクサの種子が拡散されたのだろう。たった半年で小粒の種から3mの大木に成長する生命力には驚くが、堤防の植生管理でオオブタクサを扱うのは、名取川出張所が初めてだろう。

 オオブタクサは草丈が最大で3mにも達する外来種で種子で繁殖する。地下茎はなく根は地表面の浅いところにある。
 根は中心部が太く、そこからたくさんの細い根が広がって、風に吹かれても倒れないようにふんばっている。

 いままでだれも手を付けなかった堤防のオオブタクサに、名取川出張所が挑もうとしているのは立派なことだ。
 思えば堤防の構造は何十年も変わっていないような気がする。道路では予防保全型インフラメンテナンスを標榜し、様々な技術が導入されている。
 名取川出張所はこれから高い壁を乗り越えようとしているのかもしれない。

 ジオネットは予防保全技術である。ジオネットでオオブタクサの根の中心部が太れないように予防できれば、オオブタクサの成長が抑制でき、一度の対策で恒久的に抑制効果が続くはずだ。

 雑草が生えてから手を打つのでなく、生えにくくなるようにすることが予防保全型メンテナンスだ。
 
 オオブタクサは荒れ地でもよく育つ。高さは3mにもなる外来種で、住民からは嫌われている。  
オオブタクサの根は短くて浅い。中心となる根からたくさん細い根が四方八方に広がって、風に吹かれても倒れないように踏ん張っている。

2023年4月27日木曜日

3.堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策

 秋になると道路や堤防などに黄色い花が一面に咲く。セイタカアワダチソウだ。
 
 北アメリカ原産の帰化植物で、もともとは観賞用に導入されたとの説もあるが、急速に広がったのは第二次世界大戦後。蜜源植物として養蜂業者が積極的に種子を散布したとの話もある。現在は、環境省が要注意外来生物リストに載せている植物だ。

 種子と地下茎の両方で増え、在来の植物とは比べ物にならない旺盛な繁殖力を持つ。河川敷など栄養豊富な土壌では10本近い地下茎を伸ばし、そこから地上に向かって伸び始める。
種子繁殖も旺盛で、1株あたり平均で3000個のタンポポのような羽毛を持つ種を風に乗せて飛ばし、日当たりがよければやせた土地でも湿地でも発芽、増殖する。

 根と地下茎からアレロパシー物質(他の植物の種子発芽や成長を妨げる物質)を出し、他の植物が生育することを妨げ、自身は地下茎からどんどんと芽を出して増えていく。このため、繁殖を始めた場所では日本の在来植物の姿がほとんど見えなくなり、やがてセイタカアワダチソウだけが繁茂するようになる。

 堤防法面にセイタカアワダチソウが繁茂すると、裸地化してガリ侵食を引き起こしかねないし、道路だと視距を阻害するなどと嫌われている。
 いままでの駆除方法はただひとつ。原始的な手法であるが抜き取りだけだった。

 1mmメッシュのジオネット(高密度ポリエチレン製の網)は、イタドリ対策と同様にセイタカアワダチソウの繁茂を防止できる予防保全技術であり、今までの原始的な作業から解放が可能である。

    高速道路の法面のセイタカアワダチソウ。除草量が多く景観を阻害する。
市民ボランティアによる抜き取り作業。抜き取っても少しでも地下茎が残れば、そこから繁茂が始まる。
               セイタカアワダチソウの地下茎。

2023年4月26日水曜日

2.堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ、アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策

 関東地方整備局の渡良瀬川河川事務所が管理する桐生川の堤防には、イノシシが多く出没して堤防法面を掘り返す被害が多発していた。

イノシシは野芝などの根が好物らしく、堤防法面が穴ぼこだらけになって河川管理上の大きな問題になっていた。

  事務所では平成27年ごろに対策委員会を設置して、平成28年8月ごろから平成31年2月ごろまでに、高密度ポリエチレン製の網(ジオグリット)を堤防の法面に敷き、その上に野芝を張ってイノシシが掘り返さない対策を講じた。その対策面積はおよそ20万m2にも及ぶ。
 これは河川堤防では先進的で具体的な「予防保全」といえる。しかも大規模に実施されているから凄い。この事業を迅速に採択した渡良瀬川河川事務所の英断に拍手を贈りたい。

 イノシシはジオグリットの上に張られた野芝は剥がすが、好物の野芝の根はジオグリットの下にあるので途中で諦めてしまうらしい。イノシシの去った後には剥がされた野芝が散乱しているので、維持業者が直ぐに補修することになる。ジオグリットが敷かれているから深くは掘り返えすことができないので、未対策の時と比べると補修作業はかなり軽減されたとのことである。

イノシシによる堤防の損傷は桐生川だけでなく、全国の各地で発生しているようだが、渡良瀬川河川事務所のこの予防保全対策には及ばない。他の整備局ではこれほど思い切ったことはできない。いまだにイノシシがいたずらした穴を日がな一日かけて埋めて回っている。科学が進化した現代において情けないことだと作業員たちも感じているだろう。

  おそらくは、国内の河川管理者の皆さんは渡良瀬川河川事務所のこうした取り組みを知る由もないだろう。予防保全が功を奏した渡良瀬川の対策は、全国に展開されてしかるべきものだと思う。
 イタドリやブタクサ、セイヨウカラシナ、セイタカアワダチソウ、モグラ、キツネなどに対する予防保全は、地味かもしれないが河川行政の基本的な課題だ。渡良瀬川河川事務所のように迅速な英断が求められる。
 
            桐生川出張所のホームページに示されたイノシシ対策。
ジオグリットの網目が粗いのでイタドリの防草効果はなく、イノシシやモグラの防止が専門の対策となっている。仮に目合いを1mmにするとイタドリやセイタカアワダチソウなども防止でき、一石五鳥が実現すると思うのだが…。

2023年4月20日木曜日

1.堤防のイタドリ・ブタクサ・セイヨウカラシナ・セイタカアワダチソウ・セイバンモロコシ・アレチウリ・モグラ・キツネ・イノシシ対策 

 予防保全
 最近この言葉を聞くことが少なくなったような気がする。問題が発生してから、その解決に奔走するのが事後保全。
 
 予防保全とかライフサイクルコストという言葉が、業界紙を賑わしたのは今から20年ほどの昔しになった。
 その後10年ほど経ってから道路インフラの点検が義務化になり、橋梁やトンネルなどは5年ごとに点検し、健全度評価をすることになっている。計画的に修繕をつづければ耐用年数が大幅に伸びるので、この政策は予防保全やライフサイクルコストの低減が基本になっている。

 橋梁の床版にはコンクリートの劣化を遅らせるために、防水シートを張ったり防水塗装が施されている。今から30年ほど以前から実施されていて、これは予防保全のはしりといっていい。

 鉄筋の表面をエポキシ樹脂で塗装し、塩分により腐食しにくいようにするのも予防保全だ。100年橋梁もだ。

 このように、道路インフラでは予防保全が多く実践されている。その一方で、河川のインフラではどうだろうか。
 イタドリが繁茂して堤防の裸地化が目だち、洪水になったら危険なので堤防法面を50cm以上掘り返し、段切して芝を張り替える。これは事後保全。除草剤の散布や注入も事後保全だ。

 堤防にモグラが棲みついて穴だらけになり、洪水になったら堤防決壊の原因になりかねないと慌てて掘り返して補強するのも事後保全。ライフサイクルコストの面で、堤防構造は昔からほとんど進化していないような気がする。

 しかし、今、河川でも予防保全が動きだしている。

  越水が発生しても粘り強い堤防にしようと国交省が検討会を発足させた。
 令和2年2月に、日本の河川堤防技術のトップである国土交通省の治水課が事務局となり、河川堤防の権威である大学の教授や元国総研の所長などが招集された。検討会は2年かけて越水に対して粘り強い堤防構造を模索したが、具体的な技術を確立することができず、令和4年5月に同じメンバーで、「河川堤防の強化に関する技術検討会」を立ち上げ、民間や大学等から技術提案を募ることになった。

 堤防構造の国内トップの権威者たちが集まって知恵を出し合い、喧々諤々の議論を重ねても具体的な技術にたどり着けなかった越水対策は、民間と大学の研究者に委ねられたことになった。それほど越水対策は難問なのである。しかし、それでも予防保全の実践という意味では大きな前進だ。

 ジオネット(高密度ポリエチレン製のネット)で、堤防のイタドリやブタクサ、セイヨウカラシナ、セイタカアワダチソウ、ススキ、ヨモギ、セイバンモロコシ、アレチウリ、モグラ、キツネ、イノシシ、越水対策に取り組んでから8年が過ぎた。これらは予防保全だ。思えば長いようで、そして短いようでもあった。しかし、この予防保全の技術の知名度はまだまだ低い。ジオネットの存在を知らない技術者は多い。

 
 ジオネットによる技術は、イタドリや西洋カラシナ(菜の花)、ブタクサ、セイタカアワダチソウなどの強害雑草の防止だけでなく、ガリ侵食防止、モグラやキツネ、イノシシなどの生息防止など、一石五鳥にもなる。

 そして、コンクリートブロックのように景観を阻害することもない。覆土もいらないのでコストは極めて安い。
 さらに、越水に強いことが証明できれば、強力な予防保全技術の確立が実現することになるが、検討会への応募条件は、高さ2mの堤防が築造し越水に強いことを水理実験で証明しなければならない。これには膨大な費用がかかるので個人では不可能だ。
 夢の予防保全技術への道はなかなか遠い。
 イタドリ防止のためのジオネットの張り付け作業の見学会。予防保全の取り組みが始まろうとしている。

2023年4月17日月曜日

越水対策の行方  また洪水の季節がやってくる

 国交省は一昨年、越水対策の先駆けとなるパイロット工事を、全国で16か所実施した。(下の表参照)  ほとんどが堤防法面をコンクリートブロックで覆う工法の、いわゆるブロックの三面張りだが、佐賀県の嘉瀬川だけはジオテキスタイルに植生を組み合わせたシート工法を採用している。具体には日本植生のグリットシーバーという製品だ。
 グリッドシーバーは、目合いが8mmで3.0m×0.9mのジオネットにポリエステル製の不織布を接着させたものを圃場に敷き、それに芝の種や肥料を散布し芝を生育させた後に剥がして生産される。堤防ではこれを敷いてアンカーピンで固定する。不織布に芝の根がからんでいるので、流速5m/秒にも耐えられるという。価格は、日本植生のカタログではコンクリートブロックの半分以下で済みそうだ。ブロックの三面張りが200万円/mだとしたら、グリットシーバーだと半分の約100万円/m程度になる。

 グリッドシーバーの長所は、コンクリートブロックのように覆土しなくても、多自然川づくりの基本である自然環境を維持できる。これがコンクリートブロックで覆う場合は、覆土が必然的に必要になるので、その分のコストがかかってくる。覆土するとブロックの点検が難しくなる。検討会が求める越水対策技術には点検が容易に行えることも条件になっているので、この点でもグリッドシーバーは有利だ。

 嘉瀬川を管理する国交省の武雄河川事務所では、グリットシーバーを施工後に現場で通水試験を行い、耐侵食性の確認を行っている。国交省が示す越流水深は30㎝だが、現地でその水量を確保するのが難しかったらしく、越流水深は8㎝となったが、十分な耐侵食性を確認している。
 越水対策技術は現在、業界や大学等を対象として一般財団法人国土技術研究センターが技術募集していて、早ければ年度内には評価リストがまとまる予定だが、季節は巡り、また出水期に入ってしまった。
 
 低コストで広く、そして速やかに施工できる対策が待ち遠しいと思うのは私だけではない。流域住民も同じく思っているはずだ。
 

2023年4月11日火曜日

越水対策の行方  国交省が技術募集を開始

 国土交通省は、「粘り強い河川堤防の技術」の開発のために、一般財団法人国土技術開発センターを窓口にして、令和5年3月10日から越水対策技術を公募することとした。

 公募に先立ち、募集要項に対する意見を募集したところ、5つの業界団体と6つの民間企業、1つの大学、3人の一般人の合計15者から寄せられた。
 その意見の中で特に目を引くのが、高さ2m以上の堤防を築造して30cmの水深で越流させて実験することに対し、実験施設の整備が難しいので再考を求めるというものだった。  国内の大学では、高さ2m以上の堤防を築造できるほどの水理実験場は皆無らしい。

 堤防の越水対策を熱心に研究している大学は、埼玉大学や東京理科大学などいくつかあるが、このままでは、大学から越水対策の技術提案ができなくなる可能性がある。

 提案された越水対策技術は、国交省や検討会が評価を行い、それらをまとめた評価リストを作成する予定だ。この評価リストを参考に国交省や県などが、越水対策工事を発注するという流れのようだ。
 越水対策をどこで整備するかは、今後、検討会で議論し対象が示されることになっている。

 河川の堤防は何のために築造されたか。答えは簡単だ。洪水が溢れないようにするためだ。だから、洪水が溢れては困るところに堤防が整備されている。越水破堤は堤防のあるところで発生する。堤防のないところでは越水破堤は発生するはずがない。したがって、越水対策はすべての堤防で実施されるべきなのかもしれない。

   国交省は2016年から五か年計画で、越水に対し粘り強くさせようとして、全国の約630㎞の川裏の法尻を連結ブロックで補強した。
 しかし、その補強された約630㎞の区間で実際に越水が発生したのは、都幾川の100mぐらいだけであり、越水の発生個所を高確率で予想することはかなり難しいようだ。けっきょく、河川管理者は越水対策はすべての堤防を越水のために補強しないと安心できなくなるはずだ。

 しかし、すべての堤防を粘り強くさせるには、膨大な予算が必要だ。
 仮に川裏をすべてブロックを敷き覆土する場合、当然ながら川表も同様にしなければならなくなる。こうなると1mあたり100万円は軽く超えてしまう。現状の国交省の予算規模では完成まで数十年かかるだろう。けれど、越水による破堤は年ごとに増加を続けているのだから、数十年も待ってはいられない。

 繰り返しになるが、検討委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)の、「日経コンストラクション」の2017年6月12日号のインタビューで述べた言葉だ。

 藤田氏宣う、「法面への植生も意外に効く。条件がよければ、流速5~6m/秒でも10時間は持つ。簡素な構造だから、施工にそれほど費用がかからない。さらに対策距離を結構稼げる。減災の恩恵を早く普及させるために重要な視点だ」
 まさに慧眼といえる。植生だとコンクリートで覆うよりも数十分の一の費用で済む。

   しかし、植生のみでは洪水に流されやすい。そうであれば、ジオテキスタイルなどで植生の根と絡ませれば、簡単には流されない。藤田氏は国総研時代に植生とジオテキスタイルを組み合わせた「侵食防止シート」を開発し特許を取得している。ジオテキスタイルの中に砂を注入して、そのあとに種子吹付をする方法で、なかなか手間がかかる。

 そこまでごつくする必要はないが、ジオネットの上に野芝を張るだけでも水流に流されにくくなる。この方法だと藤田氏の夢である減災の恩恵をかなり早く普及できるのではないかと考えている。

 
        検討委員の藤田光一氏(国立研究開発法人土木研究所 理事長)。
藤田氏は、堤防の植生に一定の耐侵食機能があることに着目して、国総研時代に植生とジオテキスタイルを組み合わせた「侵食防止シート」を開発し特許を取得している。  

2023年1月27日金曜日

越水対策の行方  川表よりも川裏の対策が先になるのか?

 国内の河川のうち、川表を天端までブロックを張っている堤防は少ない。

 低水護岸であればある程度はブロック張が整備されているが、高水護岸をコンクリートで覆っているのはそれほど多くない。予算確保が難しいからだろう。

  越水対策の最もポピュラーな案は、川裏を連節ブロックなどで法尻から天端まで覆ってしまう方法だ。すでに越水対策のパイロット工事と称して全国の16か所の堤防で国交省が試験施工している。
 
 ふと思うのは、川表は土羽護岸のままでいいのだろうかということ。

 表と裏、どちらを優先にすべきか。もちろん表も裏もコンクリートで覆えれば問題はないのだが、心配なのは予算だ。

 国交省の治水課が開催している越水対策の検討会は、昨年の5月20日に1回目の会合を開いたが、その後はパタリと動きが止まった。代わりに国交省所管の国土技術研究センターが、民間や大学を対象に越水対策技術を募集するための要綱案について意見募集することになった。

 募集要項案には天端、川裏の法面と法尻についてパッケージで対策案を求めるとしている。川表の護岸は、すでにコンクリートで覆っているという前提条件だ。

 しかし、実際は国交省が管理する河川でも川表の土羽護岸は多い。洪水の洗礼をうけるのは川表の護岸だが、それさえも予算が足りなくて土羽護岸で我慢している状態なのに、越水対策のために川裏をコンクリートブロックで覆うことが予算的に可能なのだろうか。

 堤防は洪水をせき止めるために整備したのだから、すべての堤防は越水する可能性があることになる。膨大な延長の堤防を、川表と川裏をコンクリートで覆い、天端を舗装するだけの予算をどこから捻出するのだろうか。募集要綱案を考えた方は、当然ながらその算段をした上で提案したのだと思いたい。

 仮に、川表を土羽護岸のままにして、川裏だけ立派な連節ブロックで覆うというのはいままで見たことがなく大きな違和感を伴う。
 
堤防の川表の多くは土羽護岸が多い。表も裏もコンクリートで覆うとなると、いろいろ問題が出てきそうな気がする。